ライフ
2019年6月26日
あなたは賃貸アパートに住んだことはありますか?
住んだことがある方は、同じアパートの他の住人との交流はありましたか?
今日ご紹介する小説は、アパートが舞台の物語、
小野寺史宜(おのでら・ふみのり)さんの『ライフ(ポプラ社)』です。
主人公は、アルバイトを掛け持ちしながら
独り暮らしを続けている井川幹太、通称かんちゃん27歳です。
かんちゃんは、大学時代から8年半、同じアパートに住み続けています。
大学卒業後は、就職したもののパワハラ上司に耐えられず2年で辞め、
その後、別の会社に就職するものの、こちらもすぐに辞めてしまいます。
今はコンビニと結婚式の代理出席のアルバイトをしています。
真面目にアルバイトをし、休みの日は一人で散歩をしたり
喫茶店に行ってコーヒーを飲みながら本を読んだりして
毎日ストレスなく気楽に生きています。
ところが、ある男性がかんちゃんの住む部屋の真上に
引っ越してきてから生活が一変します。
かんちゃんが「がさつくん」と呼ぶその男性は、音がうるさいのです。
ガンガンドンドン、歩く音もモノを置く音もとにかく大きく、
いつか注意をしたいと思いながら言えない日々が続いていきます。
そんなある日、ひょんなことから
「がさつくん」と望まぬ付き合いが始まってしまいます。
ちょっと挨拶するだけではなく、付き合いが始まってしまうのです。
例えば、一緒にご飯を食べたり、
がさつくんの子どもの面倒まで見る羽目になったり。
気付けばわりと仲良くなってしまうのですが、
相変わらず部屋の騒音は減りません。
でも、がさつくんの部屋に行くようになり、
騒音の原因が何であるかはわかるようになります。
その結果、知り合う前とは感じ方は変わって、苦痛が少しだけ緩和されます。
でも、まあいっかと思っているわけではなく
いつかは注意したいと思っているのですが、
仲良くなって逆に言いづらくなってしまったのです。
また、がさつくんとの交流が始まってから
かんちゃんは不思議と近所の知り合いが増えていきます。
誰にも頼らず、ひとりで生きられればいい、と思っていたかんちゃんですが、
彼らと交流する中で自分の心の奥にあったある思いに気づきます。
さて、かんちゃんの人生はどこに向かっていくのでしょうか。
そして、騒音問題は…?
この続きは本のページをめくってください!
***
とても面白い小説でした。
私もこれまでずっと賃貸物件に住んでいますので、
他の住人の皆さんとの距離感や騒音問題には大いに共感。
近所の方となんとなく知り合いになる、というのもわかるなーと。
また、この物語には普通の人たちばかり登場しますので、
小説を読んでいというより、誰か友人の話を聞いているかのようでもありました。
普通と言えば、かんちゃんの友人の女性がこんなことを言っています。
「事故に巻き込まれそうになった時、
自分がいつ亡くなるかわからないから、やりたいことをやろう!
と思ったのに、やりたいことが思い浮かばず、笑ってしまった」と。
結局、この女性は、あることをきっかけに、
やりたいことが特別なことである必要はないと気付くのですが、
そうなんですよね。
やりたいことって、人によって様々でいいはずなのに、
なぜか「特別なこと」を考えてしまいがちなんですよね。
例えば、死ぬまでに海外の名所を訪れたい人もいれば、
家でジャンクフードが食べたい人もいるわけです。
かんちゃんいわく、
私たちは「前向き成長信仰にとらわれている」のだとか。
たしかにそうかも。
あなたはどうですか?
ちゃんと心に正直に生きていますか?
それとも前向き成長信仰にとらわれているでしょうか。
梅雨で心がモヤモヤしがちな時期です。
なんかすっきりしない方は、是非この本を読んでみては?