ことことこーこ
2019年5月29日
今このブログをお読みの方の中には、
現在、親御さんの介護をしている方や
今はしていないけれど以前していたという方も
いらっしゃるかもしれません。
今日は、認知症の母親を介護するアラフォー女性の物語をご紹介します。
私がこの本を初めて見たのは書店の店頭でした。
大きく取り上げられていたこともあり、気にはなっていたものの
私自身、その当時バタバタしていて心に余裕が無く
「介護=大変」というイメージがあり、
読書の時間まで大変な思いをするのは嫌だ…と読むのを避けていました。
でも、先日書店でまたこの本が目に飛び込んできたため、
今度は手に取って、まず帯を読んでみました。
そこには「笑いと希望の介護小説!」とありました。
介護小説に笑いと希望?と思ったものの、
著者はあの、明るい阿川佐和子さんだし
辛く暗いだけの小説ではないのかもしれないと読んでみることにしました。
ちなみに、読んだのは昨夜なのですが…
泣いて、泣いて、泣きすぎて、昨夜は目が思いっきり腫れていました。
ちなみに、いい涙ですよ。
***
『ことことこーこ』は、去年秋の発売以来、よく売れているそうです。
タイトルだけでは何の話かわかりませんよね。
本のカバーにはスプーンやフォークなどのイラストが描かれていますので、
料理にまつわる小説かな?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
それは半分合っています。料理もたくさん出てきますから。
タイトルの「ことことこーこ」は、主人公とそのお母さんの名前です。
琴子はお母さんで、香子は娘です。
香子は、38歳の女性です。
結婚10年で離婚し実家に戻り、
フードコーディネーターとして新たな人生を歩み出そうとしたものの
なんと母に認知症の症状が現れはじめます。
始めたばかりの仕事を手放したくない。
でも、認知症の母を放っておくわけにはいかない。
結局、香子は仕事と介護を両立させようとするのですが…
という物語です。
***
この物語には、実際に認知症になった
阿川さんのお母様の介護の体験が盛り込まれているのだとか。
お父さんが突然「母さんは呆けた」と3回連呼したり
様々なことを忘れてしまう自分のことを「情けない」と綴った母のメモなどは、
実体験に基づくものなのだそうです。
このメモには涙。
お母さんは、自分が忘れっぽくなっていることをわかっているのですね。
他にもさまざまなメモが見つかるのですが、そのメモにも涙。
詳しくは本を読んでみてください。
同じことを何度も聞いてきたり、
ふらりとどこかに出かけたまま帰ってこなかったりと
認知症になったお母さんとの生活は正直大変です。
私も娘の立場で読んでいましたから
一緒に喜怒哀楽も疲労感も味わっていました。
でも、決して辛さだけを描いているのではありません。
くすっと笑えるシーンも多々あります。
だかといってバカにしているわけではないですよ。
なんといってもこの物語は、誰かを思いやる気持ちにあふれていますから。
今、まさに介護中の方も
そうではない方も是非読んでみてください。
小説としての面白さはもちろん、
「介護」への向き合い方も学べると思います。
それから、この本は読んでいるだけでお腹が減ります。
娘の香子はフードコーディネーターの仕事をしていますので、
美味しそうな料理がたくさん出てくるのです。
具体的な作り方も書かれていますので、実際にその通りに作ってみたくなります。
私が印象に残ったのは、「カレーは冷蔵庫のお掃除屋さん」という言葉。
残り物を入れれば入れるほど深みが出るんですって。
だから、ジャムも飲み残しのコーヒーも硬くなったチョコも入れていいと。
へええ!
心が豊かに、そして、おおらかになる一冊でした。