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ショートショート美術館&2018年ベスト3

2018年12月26日

graceの毎週水曜の13:45頃からは、本の紹介をしています。

第1、第3水曜は、紀伊國屋書店富山店オススメの本を紹介する「キノコレ」
それ以外の週は、私、田島悠紀子オススメの本を紹介する「ユキコレ」
をお届けしています。

この1年も様々な本をご紹介してきました。

今日は、まず年末年始にオススメの一冊を、
後半は、今年私の印象に残った本ベスト3を発表します。

まず、年末年始にオススメなのは、

『ショートショート美術館 名作絵画の光と闇
 /太田忠司 田丸雅智(文藝春秋)』

です。

一枚の絵画を見たときに感じることは人ぞれぞれです。
例えば、絵の中の女性を見て、この人は何を思っているんだろう?
実は、ここから逃げ出したくて仕方ないのかもしれない。
などと想像することは、ありませんか?

私はよくやっています。

『ショートショート美術館』には、
太田忠司さんと田丸雅智さんの二人の作家が、
同じ一つの絵画についてそれぞれ物語を書いたものが収録されています。

シャガール、モネ、ゴッホなどの名画が登場し、
その絵画も掲載されているのですが、
モノクロなので是非ネットでカラーの絵画を検索して、
その絵を見ながらこの本を読んでみてください。

同じ絵画を見てもやはり人によって感じ方は全然違うものなのだな、
ということがこの本を読むとよくわかります。
だって二人の物語は全然違いますもの。
でも、それが面白い!

ショートショートなので一話五分で読めますし、
一冊でお二人の作風が楽しめますので、
そういう意味ではとってもお得!
ちょっとの読書時間でも満足できます。
どうです?
お忙しい年末年始に読むのにぴったりじゃないですか?

全部で10作品×2=20作品が収録されていますので、
お休みの間に少しずつ読んでみては?

***

さて、後半は、今年私の印象に残った本ベスト3を発表します。

第1位 『波の上のキネマ/増山実(集英社)』

商店街のはずれにある小さな映画館の物語です。
祖父がどのようにしてこの映画館を始めたのかが描かれているのですが、
このおじいちゃんの人生がすさまじくて、
夢中で本のページをめくってしまいました。
それこそ本を読みながら読書をしていることを忘れてしまったほど、
世界に入り込んでしまいました。

第2位 『サハラの薔薇/下村敦史(角川書店)』

乗っていた飛行機が砂漠に墜落。
生き残った乗客たちでオアシスへ向かうものの、
オアシスにはたどり着けないし、食べものや飲み物は残りわずかに。
果たして彼らは生きて帰ることはできるのか?
というハラハラドキドキが止まらない一冊でした。
また、緊張感に加えて、灼熱の砂漠が舞台ということもあり、
とにかく喉がかわきました。(笑)

第3位 『花まみれの淑女たち/歌川たいじ(角川書店)』

こちらは、探偵をしているおばあちゃんたちの物語です。
それも、おばあちゃんであることを武器にして探偵をしているのです。
例えば「若者がいないところでも必ずおばあさんは歩いているけれど、
世間はおばあさんたちを無視しているから目立たないのよ!」
って、かっこよくないですか?
出てくるおばあちゃんたちみんな、人生を思いっきり楽しんでいて、
歳を重ねていくのも悪くないと思えた一冊でした。

ああ、来年はもう○○歳か。はあ…。
と思っている方こそ、この本を読んでみて!

***

他にも面白い本はたくさんありましたが、
特に印象に残った3冊をあげてみました。
本のタイトルをクリックすると、過去に書いた私の感想が読めます!

今年も私の本紹介にお付き合いいただき、ありがとうございました。

yukikotajima 11:07 am

南砺 八魂一如

2018年12月20日

年末年始は、県外にお住まいの家族や友達と
富山で再会する予定の方もいらっしゃると思います。

富山に帰省した方たちは方言や食べ物など様々な面で富山を感じ、
富山にお住まいの皆さんも
あらためて富山の良さに気付かされることもあるのでは?

せっかくなら徹底的に富山の良さについて学んでみてはいかがでしょう?

富山新聞社報道局による書籍
『南砺 八魂一如(はっこんいちにょ)「一流の田舎」への挑戦』
がこの秋、発売されました。

今年1月〜6月まで富山新聞に連載されていたものをまとめたもので、
富山県南砺市がテーマの書籍です。

富山新聞社では、南砺を見つめることが、
日本全体の地方創生のヒントを探ることにつながると考え、
南砺市ををテーマにしたそうです。

南砺市というと、どんな印象をお持ちですか?

私は、五箇山や井波彫刻などがパッと頭に浮かびます。
昔ながらの伝統が守られた長閑なところ、
という印象があります。

面積が琵琶湖とほぼ同じだという南砺市は、
2004年11月に、福光町、城端町、井波町、福野町、井口村、
平村、上平村、利賀村の8町村が合併して誕生しました。
タイトルの「八魂(はっこん)」は、
南砺市の旧8町村がそれぞれ持っている個性や誇りのことで、
「一如(いちにょ)」は、仏教の言葉で、
「異なる現れ方をしながら一つのものであること」だそうです。

本書では、おなじみの城端曳山祭や井波彫刻、五箇山民謡などの伝統文化はもちろん、
南砺市での新たな取り組みなども紹介されています。

例えば、

・井波彫刻とコスプレ姿を融合させた写真を発信している若手クリエーター
→ツイッターで好反応

・結婚したい人の心に伴走する「おせっかいさん」
→138組が成婚。そのうち南砺市在住は99組。(取材時)

など、他にも多くの新たな取り組みが取り上げられています。

また、過去の南砺市の話題も読みごたえがありました。
私が一番心に残ったのは、
ダム湖に沈んだ村「刀利村(とうりむら)」のお話。
この本を読まなければ、私は刀利村のことや
「刀利の神様」と言われた山崎先生のことを知ることはできませんでした。

それから、利賀を世界的な「演劇の聖地」に育てた
劇団SCOTを主宰する鈴木忠志さんの言葉が印象に残りました。

「人が少ない村であっても、みんなが○○○○していればいい」

まさにそれ!
その通りだと思いました。

それから、南砺市生まれの画家、石崎光瑤の作品を見に
福光美術館に行きたくなりました。

そうなのです。
この本を読んだ後は、南砺市に行きたくなります。

また、「一流の田舎」に向かって、
今後、南砺市がどのように進化していくのかも楽しみになりました。

南砺市にお住まいの方も、そうでない方も
是非お読みください。

yukikotajima 12:17 pm

常設展示室

2018年12月19日

今日のキノコレ(grace内コーナー13時45分頃〜)は、
紀伊國屋書店富山店の奥野さんから
原田マハさんの新作『常設展示室—Permanent Collection—』
をご紹介いただきます。

奥野さんの推薦文は コチラ

私も読みましたので、軽く感想を。
原田さんと言いますと『楽園のカンヴァス』『ジヴェルニーの食卓』などの
アート小説でおなじみですが、今作もアート小説です。

人生の岐路に立つ6人の女性たちが世界各地の美術館で
一枚の絵画と出合うという短編集です。

その絵画の中に東山魁夷の『道』がありました。

私は、先月、東京に行ったときに
国立新美術館で行われていた
『生誕110年 東山魁夷展』で『道』を見たばかりだったので、
興奮気味に本のページをめくってしまいました。

登場人物たちが『道』について語り合っている時、
私も絵の前に一緒にいる感覚でした。
実際『道』を見た時、作品の前からしばらく動けませんでした。
ああ、なんて無駄のない美しさだと。
そして、眺めているうちに心が澄み切って、前向きな気持ちになれました。
本当に素敵な一枚でした。

この『道』にまつわる原田さんの短編もいいお話で、
この短編を読んだことで『道』がさらに好きになりました。

今回は短編集ということで、どれも短い作品ですが、
でもしっかり心に残る作品集でした。
6編それぞれが、常設展示室に飾られた作品のようでした。

そして、原田さんのアート作品を読むと、
原田さんのアート愛が強すぎるため(笑)しっかり感化され、
小説に登場した絵画を見に行きたくなるのです。

年内にどこかの美術館の、それも常設展を見に行きたいな。

yukikotajima 11:48 am

はつ恋

2018年12月12日

あなたの「初恋」はいつでしょうか。

子どもの頃、あるいは、中学生くらいでしょうか。
でも、本当に人を好きになったのは大人になってから、
という方もいらっしゃるのでは?

今日ご紹介する本は、アラフィフ二人の「初恋」物語です。

『はつ恋/村山由佳(ポプラ社)』

主人公は、小説家のハナさん。
年齢は、アラフィフです。
千葉の海の近くの日本家屋に猫ととも暮らしています。ハナさんは、2度の離婚を経て、
今は、子どもの頃の幼馴染の少し年下の彼氏と遠距離恋愛をしています。
ちなみに、ハナさんに子どもはいません。

ちなみに、この年下の彼氏さん、名をトキオと言います。

トキオも以前、結婚していて、
大阪で19歳の娘と70代の母親と暮らしています。

ハナとトキオは、子どもの頃、お隣さんだったので、
お互いの親のことも知っているし、
もちろん親のほうも子どもたちのことを知っています。

二人は、子どもの頃、ほんとうの姉と弟のように育ったのでした。

しかし、その後、二人は離れ離れになり、なんと38年ぶりに再会します。
アラフィフになって再会した二人は、付き合い始めます。

そして、ハナは思うのです。
「どんな自分を見せても大丈夫って思える。こんなの初めて」と。
つまり、自分にとっての初恋は今だと。

これまで2回結婚しているし、他にも恋人はいたハナでしたが、
それらすべてとは違う思いでトキオのことを思っていました。

『はつ恋』は、そんな二人の物語です。

アラフィフの恋と言うと、皆さん、どんな恋を想像するでしょうか。
この本を読む限り、私は、若い人たちの物語とそんなに変わらないなと思いました。
二人でいる時の会話なんて、20代だと言ってもいいくらいのはしゃぎっぷりですし。(笑)

実際、ハナさんは「恋に適齢期はない。落ちてしまえば、それが答えだ」と言っています。

でも、どんなに浮かれていても、醸し出す空気は、やはり大人です。
だから、読んでいても疲れません。(笑)

どちらかというと、癒されるほどです。
というのも、この物語には季節のお花がたくさん出てくるのです。

物語もそれぞれの章が「卯月」「皐月」など、旧暦になっていますし、
ハナさんの家の庭で咲いた、それぞれの季節のお花が登場します。

また、ハナさんはとても豊かな生活を送っています。
たとえば、道具や食器や洋服は、自分が本当にいいと思うものを選んでいます。
そして、それらを出し惜しみしないようにしています。

私もここ数年でやっとその思いに至りまして、
ハナさんと同じように、いいものを出し惜しみせず、
普段づかいするようにしています。
もったいないからとずっと使わない方がもったいないと気付いたのです。

この小説は、恋愛小説として楽しめるだけでなく、
豊かな生活を送るためのヒントもつまっていました。

例えば、花瓶など無くても、どんなものでも花器になると。
これは、すぐにでも実践しようと思いました。

本当に素敵な一冊でした。
読んでよかった。
いい時間を過ごせました。

そうそう!
ハナさんは、子どもの頃に「初恋」だと思ったものは、
「○○○恋だった」と別の表現をしています。

気になる方は、是非本のページをめくってみてください。

クリスマスまでもう2週間を切りました。
恋人がいない人もこの本を読むと、きっと恋をしたくなるはず!

特に、今、恋をしていない大人の皆さん、読んでみてください。

yukikotajima 12:11 pm

破天荒フェニックス

2018年12月5日

今日のキノコレ(grace内コーナー13時45頃オンエアー)で
紀伊國屋書店富山店の奥野さんにご紹介頂く本は、

『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語 /田中修治』

です。

◎奥野さんの推薦文は コチラ

人気メガネチェーン「オンデーズ」社長の田中さんが書かれた小説です。

様々な人から「きっと倒産するから辞めておけ」と言われた
メガネチェーン「オンデーズ」を買収し
社長になった30歳の田中さんが、
いかにしてオンデーズを再生したのかが
小説仕立てで描かれています。

企業小説といったら、池井戸潤さんの名前がすぐに出てくるでしょうか。

池井戸作品というと、意地悪な人が出てきたり、裏切りがあったりするものの、
そんな様々な困難に立ち向かう男たちが描かれていますが、
この作品にも同じような出来事が次々に起こります。

ただ、池井戸作品と違うのは、
主人公の社長は30歳の若者で見た目はチャライことと、
喋り方も考え方も行動も若者っぽさがあるということ。

池井戸ドラマにあるような
血走った眼で見つめ合いながら強く握手をする、
といったようなことはありません。

もちろん熱さはあります。
だけど、熱さの質が違うのです。

また、彼は彼で悩みを抱えています。
仕事にかける思いは純粋だし、真剣に仕事に取り組んでいるのだけれど、
若さやチャラさといった見た目の問題も加わってなかなか信用してもらえません。

そんな彼が、社員をはじめ、取引企業などの信用を得て
会社を再生させていく様が描かれています。

彼はどのようにして信用を得て、
どのようにして再生させていったのでしょうか。

物語としても大変面白く、ページをめくる手が止まりませんでした。
また、学びもたくさんありました。
気になる言葉に付箋を貼っていったら付箋だらけになってしまったほどです。

いくつかあげると…

・愚痴や不満はいい方向に変わってほしいという願いの裏返し

・品質の悪いものを売らなければいけないこと程、
 苦しくて仕事が嫌になることはない

・僕は「任せる」ことと「ほったらかす」ことを履き違えていた

など心に響く言葉がたくさんありました。

小説として面白いのはもちろん、学びもたくさんある作品です。

年末の今、この本を読むと、
新年からの仕事のやり方が変わってくるかも!

企業のトップや何かにチャレンジしたいという方はもちろん、
どなたでも楽しめる一冊です。
ぜひお読みください!

yukikotajima 11:40 am