波の上のキネマ
2018年9月19日
最近はどんな映画をどこで見ましたか?
テレビでレンタル作品見た方もいれば、
スマホでネットにアップされた作品を見た方もいるかもしれません。
今は映画を見るスタイルも様々ですが、
以前は映画を見ると言ったら、映画館で見ていましたよね?
富山にもたくさんの映画館がありました。
私が富山に来た2001年もまだ今よりも映画館の数は多く、
当時車を持っていなかった私は、
仕事が休みの日は、よく街なかに映画を見に行っていました。
今日ご紹介する本は、商店街のはずれにある小さな映画館の物語です。
『波の上のキネマ/増山実(集英社)』
主人公は、小さな映画館「波の上キネマ」を
父から引き継いだ40代の男性「俊介」です。
駅前のシネコンに比べると
波の上キネマは、スクリーンは1つ、座席数は100余りで、
場所も商店街のはずれにあり、収益は落ち込む一方でした。
不動産業者から閉館と買収の話を持ちかけられるほどです。
しかし、祖父が創業した映画館を閉めたくない俊介は悩みます。
収益のことを考えると閉めたほうがいいけれど閉めたくない俊介は、
いつか閉めることになったとしても
祖父が始めた映画館がこの世に生まれた証を残したい、
と映画館の歴史を調べることにします。
調べていくうちにいろいろなことがわかってきました。
祖父は最初から映画館の仕事をしていたわけでありませんでした。
なんと若い頃の祖父は、ある密林の中で強制的に働かされていたのです。
そこは脱出不可能と言われる場所で、仕事も大変なものでした。
そして、なぜかその密林の中に映画館があったのだとか。
祖父はなぜそこに行ったのか。
また、脱出不可能の場所からどのようにして脱出して
尼崎で映画館を始めたのか。
そもそも密林の中の映画館とは?
俊介は祖父が若かりし頃働いていたその場所に向かうことにします。
ここから、俊介のおじいちゃんの若かりし頃の物語が始まります。
時は戦前。小林多喜二が亡くなった1933年頃のことです。
若者だったおじいちゃんが、
どのように生き、おばあちゃんと出会い、
尼崎で映画館を始めたのかが描かれるのですが、
このおじいちゃんの物語がとにかくすごかった。
夢中で読み進めてしまいました。
いや、この作品は文章を読んでいるというより
映像を見ている気分、というか私もそこにいました。
すっかり作品の世界に入っていました。
時々本を読みながら世界に入り過ぎてしまうことがあるのですが、
この作品もそんな一冊でした。
本当に面白かった!
そうそう、今年没後50年の藤田嗣治らしき「藤田さん」も登場します。
話はそれますが、藤田嗣治といえば、富山県美術館にも作品がありますよね。
また、今、東京都美術館で「没後50年 藤田嗣治展」が開催中です。
私は昨日、東京にいたので見たかったのですが、
昨日は休館日で見られなかったのです…。
ああ、残念。見たかったなー。
ちなみに、展覧会は10月8日まで行われています。
話を戻します。
この小説には「藤田さん」も登場しますので、
ぜひ藤田ファンの方もお楽しみください。
きっとニヤニヤしながら楽しめると思います。
また、この作品はとにかく映画愛にあふれています。
たくさんの名作が登場し物語を彩っていますので、
映画好きの方はより楽しめると思います。
例えば、この作品は22の章にわかれているのですが、
それが全て映画のタイトルになっています。
『七人の侍』『タクシードライバー』『伊豆の踊子』といった具合に。
この本を読んで、これらの過去の名作も見たくなりました。
それぞれの映画を見て、もう一度この本を読んだら
さらに楽しめそうだなと思いまして。
様々な角度から楽しめる、秋にオススメの一冊です。
早速、今週末の連休にいかがでしょう?