騙し絵の牙
2017年9月27日
小説は漫画や映像のように絵や写真が無いので、
小説を読む時は、登場人物の容姿を読者一人一人が勝手に想像して
物語のイメージを広げていきますよね?
ですから、実際に映像化されたときに、
自分のイメージ通りのこともあれば、
イメージと異なり、うーん、なんか違う…とがっかりすることもあります。
でも、この本に関しては、主人公の顔や声は全員が同じ人を想像するはずです。
その本とは、
『騙し絵の牙/塩田武士(株式会社KADOKAWA)』
です。
本の表紙は、スーツを着て後ろを振り返る大泉洋さんの写真です。
そう。この小説の主人公は、俳優の大泉洋さんを「あてがき」したものなのです。
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また、ページをめくっていきますと、
ストーリーにあった大泉さんの写真が何枚も出てきますので、
小説を読みながら、まるでドラマや映画を見ている錯覚に陥ります。
といっても大泉さん以外の人物は読者一人一人のイメージになりますが。
大泉さんが演じているのは、大手出版社で雑誌編集長を務める速水(はやみ)です。
いや、演じていないな、実際には。
でも、私の脳内では演じているのです。(笑)
この速水は、誰もが彼の言動に惹かれてしまう魅力的な男性です。
とにかく明るく面白い。そして、かしこい。
おじさんたちの嫌味な発言にもユーモアを交えて返したり、
空気の悪くなった会議も一瞬で笑いのある空間に変えたりと
彼がいるだけで、ほとんどの物事が穏やかに解決していきます。
例えば、ある大物作家さんに文章を依頼したものの、出来が悪かったとします。
オブラートに包まずに言えば
「これではだめです。書き直してください」となるところを、
速水は、
「初稿も面白かったけど、これ以外の設定も読んでみたい。
先生のように打てば響く方ですと、私も欲張ってしまうのです」
と言うのです。
もし私がこの作家だったら、嫌な気持ちはしません。
それどころか、そうか、では別の設定でも書いてみようかな、
と逆にやる気が湧いてきます。
こんな上司がいたら、私は間違いなくついていきます。
また、人としてはもちろん、男性としても好きになってしまいそうです。(笑)
でも、仕事ができるからと言っても
何もかもがスムーズに進んでいくわけではありません。
ある日、上司から自身の雑誌の廃刊を匂わされてしまいます。
そして、速水は組織に翻弄されていくことになります。。。
果たして、速水が編集長をつとめる雑誌はどうなってしまうのしょうか?
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小説『騙し絵の牙』、大変面白かったです!
大泉洋さんの顔だけでなく
著者の塩田さんの文章が映像的なので、
物語が鮮やかに頭に浮かんできて
物語を読みながらも映像作品を見ている気分でした。
ちなみに、塩田さんは、もと新聞記者なのだとか。
この小説にも徹底的に調べつくしているからこそのリアルな空気感がありました。
また、会話の内容やテンポもウイットに富んでいて
読んでいて何度もニヤリとしてしまいました。
ああ、なんて頭のいい人たちの会話なの!
と読みながらストレス発散になったほどです。(笑)
さらに、出版業界の裏側が包み隠さず描かれているのも面白かったです。
実際、廃刊に追い込まれている雑誌も多いそうです。残念ながら。
でも、私は今でも雑誌も小説も買っていますし、
本屋さんという場所も好きです。
ですから、これからもずっと出版業界には頑張っていただきたいと心から思います。
ネットの普及で誰でも簡単に情報を発信したり
無料で情報を得たりすることができる世の中ですが、
だからこそ、私は、よりプロの作品を選ぶようになりました。
読み物に関しては圧倒的にプロのほうが面白いですしね。
同じものを見ていても同じことを感じても
プロが表現するのと素人が表現するのでは全然違いますし。
自分の言いたいことをぴたりとくる言葉を選んで表現する。
その表現力の豊かさは、やはりプロにはかないません。
でも、これ、すべての業界に言えますよね?
趣味とプロの違いや、プロのプライドなど
そういったことも頭に浮かび、
私も「プロ」の仕事をしていきたいと思いました。
ほんっと面白い本だった!
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