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遠くの街に犬の吠える

2017年6月28日

今、このブログを読んでいる方は、
頭の中で私の声が聞こえていますか?

私の声をご存知の方は、
無意識のうちに文字が私の声になっているのでは?

小説の場合は、登場人物の声を勝手に想像していませんか?

文章を読む時、黙読していても
頭の中で声となって聞こえてきますよね。

つまり「本は声」なんだそうです。

言葉の正体は「音」で、
「世界は音でできている」のだとか。

また、音は香りのように残るのですって。

いやいや、香りは「残り香」という言葉がある通り
ずっと残ることもあるけれど、
音はどんなに大きな音を出したとしても
翌日にはさすがに消えているって!
と思いますよね?私も思いました。

でも。

「音」も香りのように何かに染みついているのだそうです。

そんなことが書かれた小説を読みました。

吉田篤弘さんの『遠くの街に犬の吠える(筑摩書房)』

です。

吉田さんは、今年2月におこなった「気まぐれな朗読会」で
私が朗読した作品『台所ラジオ』の著者の方です。

なんと新作の『遠くの街に犬の吠える』にも
「朗読」の話が出てきます!

新作には著者の吉田さんがそのまま物語に登場しているのですが、
編集者から
「音で小説を描いてみませんか。次の小説は朗読作品にしたい」
と提案されるのです。

小説を読みながら、偶然とはいえ2月に吉田さんの作品を朗読していたため、
勝手に親近感。ニヤニヤが止まりませんでした。

そして、この作品の中で吉田さんは自ら朗読することになります。

そこで出会ったのが、音響技術者の男性です。
彼は、仕事として音や声を録音する以外にも様々な音を録音しています。

例えば、炭酸をコップにそそいだ音やカメラのシャッター音などを。

そんな「音」を収集する男性がいる一方で
使われなくなった言葉を集めて辞書をつくっている先生も登場します。

この先生が亡くなったところから物語が動き出します。

登場人物が皆、この先生とつながりがあるのですが、
先生亡き後、
先生がある方とずっと手紙のやりとりをしていた
ことを知った吉田さんたちは、
そのやりとりの相手に会いに行き…。

***

ネタバレになるのであまり感想を言いたくないのですが、
独特なリズムをもった世界は大変心地よかったです。

いたって真面目な雰囲気なのに
どこかとぼけたところがあって、
真面目な部分とゆるさの按配が絶妙で。

それこそ梅雨の時期にぴったりの一冊です。
雨の音もたくさん出てきますし。

私は、じっくりゆっくり読み進めていきました。
また、読み終えた後は、
ラジオやテレビや音楽をすべて消して目を閉じ、
どんな音が聞こえるか、耳をすませてみました。

耳をすませると不思議なもので
たしかに世界は音であふれていました。

本を読む前と読んだ後で
ちょっと世界が違って見えたり感じられたりする作品が
私は好きなのですが、
この本はまさにそういったタイプの作品でした。

yukikotajima 11:25 am