我が名は、カモン
2017年3月22日
本屋さんをぶらぶら歩いている時に、
著者の名前を目にして思わず手に取った本があります。
それは、
『我が名は、カモン/犬童一心(河出書房新社)』
です。
犬童一心さんは、
「ジョゼと虎と魚たち」や「のぼうの城」
などでおなじみの映画監督です。
ですから最初この本を目にした時、
映画の原作?と思ってしまったのですが、
『我が名は、カモン』は、犬童監督の初の小説でした。
それだけも十分心惹かれましたが、
カラフルな色使いの表紙に黄色の帯がかけられていて、
なんとも楽しそうな雰囲気だったこともあり、
これは絶対に面白いに違いない!と迷わず手に取り読んでみました。
で。
肝心の本の中身はと言うと、
本の表紙から勝手に想像した期待を上回る面白さでした。
主人公は、加門慶多(かもん・けいた)。
大変めでたい名前ですが、芸名です。
元俳優で、今は劇団で芸能マネージャーをしている50代の男性です。
シニア統括マネージャーとして日々忙しく働いています。
ちなみに、忙しい理由は、担当している俳優たちのワガママに振り回されているから。
大御所俳優は、突然「引退したい」と言い出すし、
人気若手女優は、CM撮影現場でわがままを言って撮影がストップとトラブル続き。
そのたびに彼らを説得しに現場に顔を出しているのが加門です。
そんなトラブル処理係のような加門をさらに大きなトラブルが襲います。
40年前に、ある台本を途中まで書いて姿を消した伝説の劇作家を探し出し、
最後まで台本を書かせて劇を上演したいという依頼がきます。
加門は山奥の村へ劇作家を探しに行き、無事出会えるのですが、
この劇作家は、とんでもなくわがままなおじいちゃんだったのです。
私のイメージは、田中泯(みん)さんでした。(笑)
つい先日まで放送されていたドラマ「A LIFE」でキムタクの父役をしていた、あの方です。
正直ハチャメチャなおじいちゃんですが、でもエネルギッシュなのです。
いたずらっ子の少年がそのまま年だけ重ねて
おじいちゃんになってしまった感じです。
『我が名は、カモン』には、
この劇作家をはじめ、わがままな人がたくさん登場しますが、
彼らのわがままは、ぬるくはありません。
ちゃんと意味がある。
みんな芝居が好きなのです。
仕事に誇りをもっている。
そして、楽しんでいる。
だから、振り回される加門も頑張れるのだと思います。
一切の妥協無く自分の心に正直な人たちの集まる芝居の世界の、なんとまぶしいことか。
「芝居は英語で「PLAY」。上手に遊べているかどうか」が大事なんだそうです。
これ、芝居以外の仕事にも言えますよね。
仕事を遊べている、楽しんでいる人との仕事って
実際ワクワクするものです。
もちろんワクワクするだけでなく、時にはカチンとくることもあるのだけど(笑)、
後で冷静になって考えてみると、指摘されたことは正しかったりする。
妥協の無い仕事は、ひりひりする緊張感がありながらも
終わってみると「楽しかったな」と思えるものです。
この、最後はカラッとした感じが昔の現場にはよくあったのかもしれませんね。
理不尽や酷い仕打ちだらけだったとしても、
いいものを作ったあとはみんな幸せという感じ。
ちなみに、この物語の中心は50代以上の男性たちです。
だから、ちょっと今の若者たちの空気感とは違います。
でもそこがなんかいいなあと。
いまも現役で働く愛すべきオジサマたちの物語はとても面白かったです。
それから、この本、文章がまるで脚本のト書きのようなリズムなのも印象的でした。
このまま脚本として使えそうですもの。
って、実際の脚本は見たことは無いのですが…(笑)
この作品、いつか犬童監督自身の手で映画化されるかな?
是非映画化してほしい!
その時は、劇作家のわがままじいさんの役は是非、田中泯さんでお願いします!(笑)