暗幕のゲルニカ
2016年4月27日
もうすぐゴールデンウィークですね。
今年の連休は、どのように過ごす予定でしょうか。
たとえば、アートに触れる、それもお家でどっぷりと、というのはいかがでしょう?
家でアートを楽しむといっても、
絵画を購入して鑑賞するのではありません。
本屋さんに行ってある小説を買ってください。
もしじっくり読みたいのであれば、数冊まとめて。
とりあえず1冊読んで見ようというのであれば、こちらを。
原田マハさんの『暗幕のゲルニカ(新潮社)』です。
原田マハさんといいますと、
これまでもたくさんの美術小説をお書きになっています。
一番話題となったのは『楽園のカンヴァス』です。
こちらは、アンリ・ルソーの「夢」を扱っています。
他にもニューヨーク近代美術館が舞台の短編集『モダン』や
ドガ、セザンヌ、モネ、マティスの4人の画家たちを描いた短編集
『ジヴェルニーの食卓』などがあります。
この『ジヴェルニーの食卓』は「読む美術館」とも呼ばれています。
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先月発売されたばかりの新作『暗幕のゲルニカ』は、
本のタイトルにもなっている通り、
ピカソの「ゲルニカ」を取り巻く物語です。
アートに詳しくなくてもピカソの「ゲルニカ」のことはご存知の方も多いのでは?
この絵です!
今回、本の表紙になっています。
原田さんは、史実をベースに物語を紡いでいくので、
ストーリーの面白さはもちろん、アートの勉強にもなります。
ゲルニカは、1937年にドイツ軍がスペインの街ゲルニカに行った
無差別空爆をモチーフにパリ万博のパビリオンのために描かれました。
反戦のシンボルでもあります。
このゲルニカにはタペストリーがいくつかあり、
そのうちの一つはニューヨークの国連本部のロビーに飾られています。
ところが、このタペストリーが2003年のある日、姿を消します。
誰が何のためにこのタペストリーを隠したのか。
この事件をきっかけに原田さんは物語を書くことにされたそうです。
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原田さんは、アートに込められたメッセージが政治や国を動かすことがある。
とくに「ゲルニカ」にはそういう力がある。とおっしゃっています。
私もそう思います。
絵画はもちろん、小説も曲も映画も娯楽のひとつであるけれど、
人の人生を変えてしまうほどのとてつもない力を持っていると思います。
この『暗幕のゲルニカ』では、
ピカソがゲルニカを描くことになったきっかけをはじめ、
どのような思いで描いたのかを知ることができます。
この本を読む前と読んだ後ではゲルニカの見方も変わると思います。
私は変わりました。
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この作品は、2つの時代の物語が
それぞれ、ある女性の目線で交互に進んでいきます。
まず、1930年代のパリ。
ピカソの愛人のドラ・マールの物語です。
彼女は「泣く女」などのピカソの絵画のモデルとしても知られる実在の人物です。
もう一方は、2000年代のニューヨーク。
日本生まれでニューヨーク近代美術館のキュレーターである
ヨーコ目線で物語が進んでいきます。
彼女は、ピカソ研究をしており、
企画展「ピカソの戦争展」を開くにあたり
ゲルニカを展示の目玉にしたいと考えています。
この二つの時代が交互に入れ替わりながら
『ゲルニカ』を軸に物語が進んでいきます。
二つの物語がどう繋がっていくのか。
後半になるにつれ、私は文字を読むスピードが増していきました。
原田さんの文章は、表現が美しいだけでなく、
リズムが心地いいので声に出して読みたくなるのですが、
今回はまるで音楽を奏でるかのごとき文章で、とくに最後が最高でした。
バンドメンバーの息がぴったりのライブって、見ていて気持ちいいですよね?
まさにそんな感じでした。
今回も濃い読書時間でした。
原田マハさんのアート小説はやはり面白い!
そうそう、ピカソの作品は富山でも見られるんですよ。
さすがに「ゲルニカ」はスペインに行かなければ見られませんが、
富山県立近代美術館では、現在、
「座る女」と「静物」の2点が展示されていますので、
小説と合わせて実際の作品もご覧になってみてはいかがでしょう?
私も今度見に行ってみよう。