九年前の祈り
2015年2月4日
思ったことを悪気もなくそのまま口にする方、あなたの周りにいませんか?
よく言えば、裏表が無い。
悪く言えば、空気が読めない…。
そんなおばちゃんたちがたくさん出てくる本を読みました。
それは、先日、芥川賞を受賞した
小野正嗣さんの『九年前の祈り』
です。
今日のキノコレで紀伊國屋書店富山店の橋本さんに詳しくご紹介いただきます。
★ 橋本さんの推薦文は コチラ
・・・
私も読みましたので、簡単にご紹介しますね。
主人公は、シングルマザーの35歳の女性です。
幼い子供を連れて久しぶりに大分の実家に帰ってきます。
ところが、彼女のお母さんが何でも思ったことを口にする人なのです。
彼女がお母さんと会話をする度イラっときているのが、
本を読みながら伝わってきて、私までイライラ。
でも、娘の方も投げやりで不満でいっぱいで、
家族間のやりとりにはどこか刺々しさがあります。
というのも娘は自分の子供のことで悩みを抱えていて、
全く心に余裕が無いのです。
そんな時に思い出したのが、9年前のある出来事でした。
・・・
この本は、大分の田舎が舞台なのですが、
田舎にありがちなあれこれが詰まっていて、
まるで実家に帰って、いろんな人の噂話を聞いたかのような気分になりました。
いろんな人、と書きましたが、『九年前の祈り』は短編集です。
同じ町の出来事が描かれており、それぞれのお話がゆるやかに繋がっています。
不満と閉塞感がにじみ出ている田舎の物語なのですが、でも、暗さだけではありません。
この作品には独特な比喩がたくさん使われているため、
どこかふわっとした光も感じられます。
比喩が効果的に絵として見えてきて、
幻想的な雰囲気を演出しているような感じがあります。
でも、ふわふわとしたおとぎ話ではなく、
あくまでも舞台は大分の田舎で、現実は常にべったり寄り添っているという
面白い読書体験でした。
また、独特な言葉選びと文章のリズムを感じた一冊でもありました。
私が普段読むタイプの本の呼吸のリズムとは違いましたが、
いつもとは違う呼吸に合わせて読むのも刺激があって面白かったです。
芥川賞を受賞した物語もよかったけれど、
私は、最後の「悪の花」という作品が印象に残りました。
暗く悲しく、でもどこか美しくて凛としていて。
悪の花、短編映画でもいいから、映像化されないかな。
映像でも見てみたい。