注文の多い注文書
2014年2月26日
『注文の多い』と言ったら、
きっと宮沢賢治の『注文の多い料理店』を思い浮かべたくなりますよね。
でも、今日ご紹介する本は、
『注文の多い注文書』 という本です。
筑摩書房から出ています。
著者は小川 洋子さんとクラフト・エヴィング商會(しょうかい)です。
小川洋子さんは『博士の愛した数式』でおなじみの作家さんです。
わたしは 『ことり』 という作品が好きです。
FMとやまではラジオ番組もしています。
一方のクラフト・エヴィング商會は
吉田浩美さんと吉田篤弘さんによるご夫婦ユニット。
著作の執筆と装幀の仕事を数多く手掛けていらっしゃいます。
そんな二組による作品です。
二組で作品をどのように書いたのかというと、
「ないものを探してください」という小川洋子の描く人物たちの依頼に、
クラフト・エヴィング商會が応えるというスタイルです。
クラフト・エヴィング商會はその名前のままお店として小説に出てきます。
お店の看板にはこうあります。
「ないもの、あります」
と。
たとえば、七つの夜の香りや四次元コンパスなど
得体のしれない商品を扱っています。
そんな世界中の不思議なものを探し出してくださるのが、
クラフト・エヴィング商會です。
『注文の多い注文書』は、
まず、注文書という形で小川洋子さんが探しているものを注文します。
続いてクラフト・エヴィング商會から納品書が届き、
小川さんの受領書で完結するというスタイルです。
全部で5つのお話があります。
なんとすべてシナリオなしの真剣勝負なんだとか。
ちなみに、探し物の依頼は小川さん自身が、ということではなく、
小説の登場人物がしています。
しかも、それぞれの物語は別の小説がベースになっています。
・・・
たとえば、1話目は、
大好きな彼の体に触れる度、触れた場所が消えて見えなくなってしまうという、
人体欠視症にかかってしまった女性のお話です。
彼女は、その治療薬を求めてクラフト・エヴィング商會を訪れます。
そして、このお話は川端康成の『たんぽぽ』という作品がベースになっています。
この『たんぽぽ』にも人体欠視症の女性が出てきます。
クラフト・エヴィング商會は、どのように治療薬を見つけ出したのか、
そして、薬を手に入れた女性のその後は?
と、ちょっと変わった注文のやりとりが描かれています。
他にも村上春樹さんの『貧乏な叔母さんの話』をベースにしたお話などもあります。
このお話で探しているものは「貧乏な叔母さん」。
いったいどんなお話だよ?って思いますよね。(笑)
・・・
これらの小説のベースになっている原作をご存知の方はより楽しめると思いますが、
でも、私はどれも知りませんでしたが、すべて楽しめました。
というか、この小説に登場したすべての作品を読みたくなりました。
そういう意味では広がりのある作品です。
原作を読んで、もう一度この本を読んだらより深く理解できそうです。
本の最後には「本書の源泉となった五つの小説」が
小川洋子さんのコメント付きで紹介されていて親切です。
また、クラフト・エヴィング商會を訪れた小川洋子さんと
クラフト・エヴィング商會の対談も載っています。
・・・
『注文の多い注文書』は、本を読んでいるという感覚とはちょっと違っていました。
普通はこうでしょ・・という感覚を持って読んだら、
あまりの変化球に戸惑い過ぎて前に進めなくなるかもしれません(笑)。
常に想像を超える未来が待っているので、
そのことに対する恐怖がにょきっと自分の中に生えてきそうになりますが、
それよりもワクワク感、好奇心の方が勝り、
胸のドキドキ、興奮を感じながら本のページをめくり続けました。
こんな感覚を味わえる本ってそうは無いと思います。
丁寧で静かなタッチの物語にこんなに刺激を受けるなんて。
代わり映えのない単調な日々を送っているという方は、
是非、この世界に足を踏み入れてみては?
でも、どうやってその世界に行けばいいかって?
そんなの簡単です。
本のページをめくりさえすればいつでも行けます。
たった1冊この本を手に入れればいいんです。
また、本好きの方が読んだたら、きっと「わかる—この感覚!」
という共感もできると思いますので、ぜひ。