さようなら、オレンジ
2013年10月23日
まっすぐで誠実な物語を読みました。
ふざけていない、真面目な物語を。
この本は泣かせるために書かれた本では無いと思うのです。
でも、私は涙が何度も零れ落ちました。
狙っていないんです。
泣かせようとか、笑わせようとかと。
ただただ正直な文章です。
小説なのに正直と言うのもおかしいかもしれないけれど、
でも、正直だなと感じました。
また、この物語は「言葉」がキーとなっているだけあって、
紡ぎだされる文章が美しく丁寧です。
絵文字や顔文字に頼らなくてもちゃんと伝わります。
ありきたりの使い古された言葉ではなく、
丁寧に選ばれた言葉たちが、しっくりあるべき場所におさまっている感じです。
そんな文章をゆっくり味わいたくなる一方で、物語の先も気になり、
じっくり読みつつも心は前に進みたくなるもどかしさを味わいながら、
なるべく丁寧に読んでいきました。
***
今日ご紹介するのは、
岩城(いわき)けいさんの
『さようなら、オレンジ(筑摩書房)』
です。
第29回太宰治賞を受賞した話題作で、
本の帯には、小川洋子さんや三浦しをんさんのコメントが載っています。
***
物語は、二人の女性の目線でつづられています。
一人は、サリマという女性。
彼女は、オーストラリアの田舎町に住むアフリカ難民です。
夫に逃げられ、スーパーの精肉作業場で働きながら、
二人の息子を育てています。
しかし、現地の言葉、英語がわからず、
コミュニケーションがうまくいかないため、
職業訓練学校で英語を学び始めます。
そして、もう一人が、
自分の夢をなかばあきらめ夫についオーストラリアにやってきた日本人女性。
こちらは、日本にいる先生に宛てた手紙のスタイルです。
そんな二人の目線で物語が進んでいきます。
本の帯にはこんなことが書かれていました。
異郷で言葉が伝わること—
それは生きる術を獲得すること。
人間としての尊厳を取り戻すこと。
深い言葉です。
でもこれ、同じ日本語を使う日本でも同じかなと思いました。
富山出身ではない私は、
富山に来たばかりの頃は富山弁がわからず、
疎外感があったものです。
でも徐々に言葉の意味がわかるようになり、
富山弁のあたたかさを感じられるようになりました。
言葉を知るということは、
その土地の人を知ることでもあるのですよね。
この本の主人公のひとりであるサリマは、
言葉を覚えるために、必死に努力をします。
そしてわかるようになっていくことに対して、
このように表現しています。
知らないことへの恐怖が
知ることの歓びにかわる
と。
これ、よくわかります!
どんなことでも「知らない」ことはこわいことです。
でも、わかるようになると、もっと知りたいと思うようになる。
サリマの生き方は女性として、
いや、人間として学ぶことがたくさんあります。
真面目と言われると、
あまりいい印象を持たない人もいるかもしれないけれど、
私はこの本を読んで「真面目」っていいなあと思いました。
誠実で正直で。
でも、この本は、それだけじゃありません。
意外な面白さもあります。
でも、これ以上は何も言いません。
におわせることももったいないくらいです。
本当は言いたくてたまらないのだけど。(笑)
最後まで読んでいただければ、
きっと、おお、これか〜!とわかっていただけると思います
とにかく素敵な本です。
多くの皆さんに読んでいただきたいけれど、
特に、
何かを新たに始めたいと思っている方、
疎外感を感じている方、
何かをあきらめかけている方、
そして、働く女性たち(特にママたち)、
是非読んでみてください。