54『虹色と幸運』
2011年10月5日
映画化もされた『きょうのできごと』の原作者、
柴崎友香さんの新作『虹色と幸運(筑摩書房)』を読みました。
主人公は、アラサ—女性3人。
学生時代の友達です。
年下の彼と同居している大学職員。
フリーのイラストレーター。
そして、雑貨屋をオープンさせた主婦。
そんな3人の1年が季節の移ろいと共に描かれています。
誰が主役と言うのは無く、
一人称が入れ替わって彼女たちの本音が綴られていきます。
また、3人だけじゃなく、
それ以外の登場人物も、誰かの視点からではなく、一人称で描かれます。
そこがとても面白いのです。
例えば、なかなか結婚しない娘に対し、
勝手に不倫をしていると思いこんでいる母の視点。
娘の言動にいちいち反応し、
イライラしている様子が手に取るようにわかります。
ひとつの出来事に対する様々な人の本音が綴られているので、
より現実的な印象を与えます。
また、この本音の裏と表も描かれます。
例えば、友人といえども、嫌だなと思えるところは、きっと誰でもあると思るのですが、
私、この子のこういうところが嫌なんだよな、と、心の中で思っていることを、
オブラートに包みつつ、嫌みを混ぜて口に出す。
そのなんともいえない絶妙さに思わずニヤリとしてしまいました。
自分自身が思っていたり、人からこう言われたりしたいな、と思っていることが多く、
なんだ、みんな同じなんだな、とほっとできる、まさに共感しやすい1冊でした。
さらに、自分とは違うタイプの人の悩みを知り、
それはそれで勉強にもなりました。
そういった意味では、
本音が綴られた友人の日記を、
偶然読んでしまったかのような感じでした。
(と言っても、今まで、私自身は盗み読みしたことは決してありませんよ!)
秋の夜長、懐かしい友人に会いにいく感覚で、
この本を読んでみてはいかがでしょう?
きっとこの本を読んだ後は、
実際、懐かしい友人に会いたくなると思います。