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『みずもかえでも』

2024年11月27日

プロと素人の差って何だと思いますか?

今や便利な世の中になりましたし、AIの力も借りられますので、
素人でもそれなりにいろんなことができてしまいますが、
ちゃんと基礎を学んだプロと、形だけを真似した素人は違うものです。

とは言え、今はプロとして活躍している人も最初は素人です。
早くできるようになりたいと思ってもうまくいかず、
焦って落ちこんだこともあったかもしれません。

私もありました。
失敗ばかりで、この仕事向いていない、と何度思ったことか…。

今日は、未熟だった当時の自分の気持ちが蘇ってきた一冊をご紹介します。

『みずもかえでも』
関かおる
株式会社KADOKAWA

第15回〈小説 野性時代 新人賞〉を受賞した話題作です。

主人公は、繭生(まゆう)という20代の女性です。
彼女は落語好きの父に連れられ、よく寄席に行っていたのですが、
そこで高座中の落語家の写真を撮る
「演芸写真家」という仕事を知って興味を持ちます。

高座中、「かしゃん」というシャッターを切る音が聞こえたものの、
繭生には、その音が邪魔どころか、物語と溶け合っているように聞こえたのでした。

そして、真嶋(ましま)という演芸写真家に弟子入りを願い出ます。

すると、真嶋からある条件を言われます。
それは「遅刻をしないこと」と「演者に許可なく写真を撮らないこと」
のふたつの約束を守ることでした。

写真家は、芸人さんたちから信頼を得ないと、撮影を許可してもらえないのです。

また、写真を撮る際、芸人さんたちの邪魔をしてはいけません。
真嶋は、自分たちは「空気のようにならないといけない」と言います。

たしかに、プロのカメラマンって空気のようかも。
私は仕事でパーティーやイベントの司会をすることも多いのですが、
プロのカメラマンは気配を消すのがうまいのです。
ちゃんと撮るべきタイミングをわかっているから、邪魔になりません。

今の時代、カメラの性能が上がっていますから
プロじゃなくても、それなりの写真は撮れます。
でも、タイミングまで考えて撮っている方は、多くないように思います。

実際、司会をしていても
今じゃないでしょ、というタイミングで
「かしゃん」という音が聞こえてくることはよくあります。

さて、話を戻します。
真嶋はプロですから、ちゃんとシャッターを切る瞬間をわかっています。
繭生もそこに惹かれ、弟子入りを願い出たわけです。
そして、真嶋の手伝いをしながら、
自分もそろそろ写真を撮りたいと思うようになります。
ですが、カメラすら触らせてもらえません。

そんなある日、高まる衝動を抑えきれず、
繭生は、女性落語家「みず帆」の高座中にシャッターを切ってしまいます。
一度だけ「かしゃん」と。

そして、繭生は約束を破ったことを隠したまま演芸写真家の道を諦めます。

それから4年が経ち、繭生はウェディングフォトスタジオで
カメラマンとして働いています。

トラブルが起きないよう、言われた通りに写真を撮る繭生の評判は、
決して悪くはありませんでした。

ですが、熱い思いを持ったアルバイトの男性からは
「いい写真を撮るより、トラブル回避っすか」と嫌味を言われてしまうのですが。

そんな中、次に撮影する新郎新婦として紹介されたのは、
かつて繭生が許可なく写真を撮ってしまった女性落語家のみず帆でした。

みず帆との再会によって、
繭生は過去の過ちと向き合わざわるを得なくなります。

この続きは、ぜひ本を読んでお楽しみください。

*

繭生は未熟だったころの自分自身を見ているかのようで、
何度も胸がちくんと痛みました。
相手の正しすぎる言葉がダイレクトに刺さるんですよ。
だから痛いのなんのって。

また、仕事とはどういうことなのか。
働く人たち、それぞれの思いが印象的で、
色々と考えさせられました。

例えば、変だと思っても
お客様の気持ちを第一に考えて意見は言わない方がいいのか。
それとも、より良くするために、
あえてプロとしての意見を言った方がいいのか、とかね。

これ、仕事をしていると、よく出てくる問題ですよね。

これから社会人になる方は、
ハウツー本より、まずこの本を読んだらいいと思うわ。

大人の皆さんもこの本を読んで初心を思い出してみませんか。

あと、落語好きの方もぜひ。
リズムのいい文章で、心地よく読めます。

赤く色づいたかえでの表紙のイラスト含め、今の季節にぴったりの小説です。

yukikotajima 12:36 pm

『ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に』

2024年11月20日

今や人に何かを伝える時、直接会えない場合はスマホを使って伝えますよね。

例えば「遅刻」を伝える際、
仕事相手なら電話で
カジュアルな関係ならLINEスタンプを送って
遅れることを伝えるかもしれません。

でもスマホが無い時はどうしますか?

伝えたいことがある。
でもスマホは使えない。
さて、どうやって伝えましょう。

今日ご紹介する本は、
さまざまな方法で人に伝えようとする人たちが出てくる短編集です。

『ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に』
斜線堂有紀 (しゃせんどう・ゆうき)
双葉社

いま、もっとも注目されるミステリ作家による短編集です。

5つのお話が収録されているのですが、どれもそれぞれ面白く、
感覚的には単行本を5冊読んだくらいの満足感がありました。
とは言えページ数は決して多いわけではありませんので、
時間的にはさらっと読めます。
ですが、どのお話もすぐに引き込まれ、一気読みの面白さです。

5つのお話のうち、特にスピード感があってドキドキしながら読んだのは、
二つ目の「妹の夫」です。

宇宙をワープして遠くまでいけるようになった未来のお話です。
主人公は、ワープを使って宇宙を移動する初のパイロットに選ばれます。

でもそうなると、最愛の妻とはもう会えなくなります。
と言うのも彼が地球に戻ってくるころには、
時代がだいぶ先に進んでしまっているからです。

そこで、家にカメラを設置し、妻の様子が見られるようにします。
妻も賛成し、カメラ越しとは言え、
お互いの存在を感じられるようにしたのです。

そんなある日、妻が妹の夫に殺される映像を目にしてしまいます。

このことを地球に伝えなければ、と思ったものの、
モニターに現れたのはフランス人の男性。
言葉が通じなーい!

その上まもなくワープの時間が迫っています。
ワープをすれば次に連絡を取り合うときには、
地球ではかなりの時間が経ってしまいます。
時間もなーい!

果たして、彼はどうやって妻が殺されたことを伝えるのでしょう。

このお話は終始ドキドキしっぱなしでした。
また、リズミカルな文章で、最後も歯切れ良く、
いつか機会があれば朗読してみたいと思ったほどです。

他には、1960年代のニューヨークのギャングの物語もあります。
ある日、主人公のギャングの危険を知らせる声がジュークボックスから聞こえます。
味方だという、その声の言うことを信じていいのか。
そもそもいったい誰がなんの目的でこんなことをしているのか。
こちらも面白かった!

最後のお話もひきこまれました。
ややウザめキャラの日本人が出てくるのですが、
彼の発言の間が絶妙なのです。

文字だけの文章から、会話の間までちゃんと伝わってくるのです。
その間が生み出す面白さがありました。

どのお話も頭の中に映像が浮かびやすく、
まるで目の前で起こっているかのような臨場感がありました。

本を読んだ後、著者のプロフィールを見たら
「朗読劇の脚本も手がける」とあり、納得!
だから声に出して読みたくもなるし、間も絶妙なのかと。

この本は短編集ですので、
忙しくて本を読む時間があまり取れないという方にもオススメです。
また、短編とは言え満足度は高いです!

あなたも秋の夜長に少しずつ読んでみませんか。

yukikotajima 11:37 am

『さくらのまち』

2024年11月13日

あなたは「さくら」と聞くと、何を思い浮かべますか?

春に咲く満開のソメイヨシノ?
今の季節に楽しめる可憐なジュウガツザクラ?
それとも別のさくらでしょうか。

今日ご紹介する本はこちら。

『さくらのまち』
三秋縋著(みあき・すがる)
実業之日本社

三秋さんは、若い世代を中心に読者からの熱狂的な支持を誇る作家です。

最新作の『さくらのまち』は、こんな未来もあるかもしれないと思える世界のお話です。

物語の主人公は、ある理由から誰のことも信じることができない男性です。
どれくらい信じられないのかと言うと、
自分に好意的な人のことは疑い、
良好な関係を期待できない人に安心してしまうくらいです。

でもこの感覚、ちょっとわかるかも。
好意的すぎたり、自分にとって条件が良すぎたりすると、
もしや何か裏がある?だまされてる?と私も疑ってしまいます。
まあ、簡単に人をだます人もいる今の時代には、
それくらいでいいのかもしれませんが。

とは言え、主人公の場合は、警戒し過ぎです。

さて、ある日、彼のもとに学生時代の友人が亡くなったと連絡がきます。
その友人は、色々な意味で今も忘れられずにいる女性でした。
そもそも彼が人を信用できなくなったのは、彼女が原因でした。

詳しくは本を読んでいただきたいのですが、
もし私も同じことをされたら、主人公と同じようになってしまうかもな。

彼は彼女の死について確かめるために、故郷に戻ることにしたのですが、
なんとそこで彼女と瓜二つの女性に出会います。

かつて彼と彼女の間にいったい何があったのか。
そして瓜二つの女性とは。

全て読み終えた時、もう一度本のタイトルと表紙をご覧ください。
本を読む前、読んでいる途中、そして読み終えた後、
きっと印象が変わっていくのを感じると思います。

『さくらのまち』は、物語の設定はフィクションですが、
感覚的なものはとてもリアルで、
主人公に自分を重ねて、まるで自分自身の心も試されているようでした。

具体的な感想を書くことは、ネタバレになってしまうので、我慢します。
本当は言いたいのだけど。
でも、きっと読んだ方たちは同じことを思うはずだから、まあいいか。

とにかく色々な意味で心を動かされ続けた物語でした。面白かったです!

ぜひあなたも自分ならどう思うかを考えながら読んでみてください。

yukikotajima 12:12 pm

『小鳥とリムジン』

2024年11月6日

今日は、昼前から陽射しが感じられましたが、
晴れている日に、部屋の窓を開けて換気をすると気持ちいいですよね。

では、あなたの心はどうでしょう。
心の中を換気してますか?

今日は、心の中を換気できそうな一冊をご紹介しましょう。

『小鳥とリムジン』
小川糸
株式会社ポプラ社

ヨリミチトソラでは、毎週水曜の18時半過ぎから
このブログとの連動で本の紹介をしていますが、
毎月第1週は明文堂書店とのコラボ回!
今日は、本を愛する高岡射水店 書籍担当 野口さんのオススメ本です。

『小鳥とリムジン』は、先月9日に発売されたばかりの小川糸さんの最新小説です。
発売から一ヶ月も経っていないのに、早くも5万部を突破したのだとか。すごい!

小川さんは、映画化もされた2008年のデビュー作
『食堂かたつむり』でおなじみの人気作家さんです。
私は、デビュー作はもちろん、ドラマ化された『ライオンのおやつ』も好きです。

『食堂かたつむり』では「食べること」、
『ライオンのおやつ』では「死に向き合うこと」からの再生、
つまり「生きること」を描いてきた小川さんですが、
今回のテーマは「人を愛すること」です。

本のタイトルの『小鳥とリムジン』は、それぞれ人の名前です。
主人公は、家族に恵まれず過酷な子ども時代を過ごした小鳥という女性です。
リムジンは、お弁当屋さんの店主の名前です。
小鳥は、そのお弁当屋さんの前を通るとき、中に入ってみたいと思うのですが、
人と接することが得意でない彼女は、ドアを開けられずにいます。

ですが、ある日ついにドアを開けます。

深い傷を負って、自分の人生をあきらめていた小鳥でしたが、
様々な人との出会いによって、徐々に心と体を取り戻していきます。

物語には、そんな小鳥の幼少期から今に至るまでが、丁寧に紡がれています。
正直、子どもの頃の描写は読んでいるだけで辛くなります。
何度、本を閉じようと思ったか。
中には、この本読むのもう嫌だ、と思う方もいるかもしれません。
そんな時は無理をしなくてもいいと思いますが、
読めそうだなと思える時が来たら、ぜひまた本を開いてみてください。
小鳥がお弁当屋さんのドアを開けたように。

一歩前に進むことで、世界の印象がガラリと変わったりするものです。
小鳥もある時から「世界が柔らかい」と感じるようになります。

それこそ、この本を読む前と後では、
あなた自身の身の回りの印象も変わって見えるのではないかしら。
それもいい方に。

本を読み終えた時、あなたには世界がどのように感じられるでしょう?
ぜひ確かめてみてください。

とてもいい本でした!
年齢性別問わず、多くの人に読んでいただきたい一冊です。
特に若い方たちに届いてほしいなあ。

その理由は、この本を大プッシュされている
明文堂書店 高岡射水店 書籍担当 野口さんのコメントにもあります。

物語を通して、愛を学ぶ!
この一言に尽きます。
「生きる」ことの原点が、シンプルに描かれていると思います。
世界一おいしいモヤシ炒めは絶品ですよ〜。

***

そう、「愛」を学べるのです。
今の時代にこそ必要な物語だと思いました。

なお、「世界一おいしいモヤシ炒め」は、
リムジンによると、「小雨くらいの火加減」で作るのがポイントだそうです。

小雨くらいとはどういうことなのでしょう?
気になる方は、ぜひ本を読んでみてください。

せっかくだから私も今夜、モヤシ炒め作ってみようかな。

この「小雨くらいの火加減」もだけど、
小川さんの文章は、言葉のチョイス含めとても素敵な表現なので、
読んでいるだけで感覚が磨かれる感じがします。

例えば、お弁当屋さんの前を通った時に
「美味しそうな匂い」とか「幸せな匂い」くらいの表現なら、
きっと誰でも思いつくと思うのですが、小川さんは違います。

「店の周辺には、うっすらと調味料で色付けされたカラフルな空気が、
シャボン玉みたいに浮かんでいる」

って、どうですか?
この文章から、主人公のワクワクした気持ちが伝わってきませんか?

ちなみに、これは物語の1ページ目に書かれています。
私は、この文章を読んだ瞬間、「ハイ、好き!」と思いました。
もはや一目ぼれです。(笑)

小川さんならではの豊かな表現も魅力の一冊です。

それから、リムジンの作るお料理がどれもとても美味しそうなので、
空腹のときに読むと、間違いなくお腹が鳴ります。
リムジンのお弁当屋さんが家の近くにあれば、私、絶対に常連になると思うわ。

***

『小鳥とリムジン』の特設サイトには、
第1章のあらすじ漫画が公開されていますので、
まずはこちらから読んでみるのもいいかも。

この本もいつか映像化されそうだな—。

『小鳥とリムジン』は、富山県内の明文堂書店全店
「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にもありますので、
ぜひチェックしてみてね♪

◎明文堂書店のサイトは コチラ

yukikotajima 12:17 pm

『ショートケーキ。』

2024年10月30日

暑さもようやくおさまり、秋らしい気候になってきました。

秋は、食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋など、
様々な楽しみ方がありますが、私にとってはこれも欠かせません。

読書の秋。

それに今は「読書週間」ですし。
読書週間は、10月27日〜11月9日の文化の日を中心にした2週間です。
終戦まもない1947年に
「読書の力によって、平和な文化国家を作ろう」という決意のもと始まり、
今年で78回目です。

そして、毎年楽しみにしているのが、
読書週間にあわせて発表される標語です。
今年の標語はこちら。

「この一行に逢いにきた」

わかるわー!この感覚。
私も読書の一番好きなところはこれかもしれません。
ストーリーの面白さはもちろんですが、
ハッとさせられる一行に出会える喜びを味わいたくて本を読んでいるのかも。

普段本はあまり読まないという方も、
読書週間に何か一冊、本を読んでみませんか。
モヤモヤしたあなたの心を救ってくれる一行に出逢えるかもしれませんよ。

でも難しい本は無理だし、高い本も買えない。
それに本を読む時間もない。

という声が聞こえてきたような…。

そんな方は、文庫の短編集はいかがでしょう?

文庫ならお求めやすいですし、
短いお話ならわずかな時間でも読めます。

今日ご紹介する一冊は普段あまり読書をしないという方にもオススメです。
テーマも「ショートケーキ」ですので身近ですし。
あ、でも読んだ後は、きっとショートケーキが食べたくなるので、
本代に加えてケーキ代もかかってしまうかもしれませんが。(笑)

『ショートケーキ。』
坂木司
文春文庫

坂木さんは「和菓子のアン」シリーズでおなじみの作家さんです。
なんとシリーズの累計は100万部を突破しているそうです。

他にはドラマ化もされた『女子的生活』などもあります。
私、この本、好きです。

◎田島の紹介は コチラ

さて、『ショートケーキ。』は、
ショートケーキがテーマの連作短編集です。
5つのお話が収録されており、お話ごとに主人公が異なります。
そして、一冊を通して登場人物がゆるやかに繋がっています。

まず、駅ビルの中にあるケーキ屋さんにやってくるお客さんの話から始まり、
次は、そのケーキ屋さんで働く大学生、
そして、その大学生を見守る先輩スタッフへと、
主人公が変わりながら物語が進んでいきます。

そして、どの物語にも「ショートケーキ」が出てきます。

同じケーキ屋さんの描写でも
お客さん、スタッフ、さらに別のスタッフと
視点が変わることで、見え方や感じ方も変わってくるもので、
誰かひとりではなく、そこにいるみんなの心の中をのぞける面白さがありました。

また、ひとりひとりのケーキへの思いも良くて、
例えば、駅ビルのケーキ屋さんの先輩スタッフは、
「駅ビルで『売り切れ』はやりたくない」と言います。

「いろんなことに疲れて帰ってきて、
甘いものでも食べなきゃやってらんないってときに、
『売り切れ』ってなってたら、絶望しそうだから」と。

なんて素敵な先輩!
きっとこの先輩スタッフさんは疲れた人の心を何人も救ってきたのだろうな。

いつものお菓子ではなく、ケーキを食べたい。ケーキで満たされたい!
という日、私にもあります。

また、ケーキは自分で食べるために買うこともあれば、
誕生日のお祝いなど、人のために買うこともあります。
そこにはその人のことを思う気持ちがもれなくついてきます。

ショートケーキを軸に紡がれる人々の物語は、
それこそ美味しいショートケーキを食べた時のような満足感がありました。

また、今年の読書週間の標語
「この一行に逢いにきた」と思えるような一行との出逢いもありました。
でもそれがどんな言葉だったかは、あえて言わないことにします。

ぜひあなたの自身の「一行」を見つけてみてください。

そういえば、スポンジのショートケーキって、日本独自のケーキなんですって。

yukikotajima 12:10 pm

『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』

2024年10月23日

あなたには「推し」はいますか?

人だけでなく、音楽、本、映画などの作品や、
スポーツ、釣り、旅行などの趣味など、
誰にでも「好き」なものはあると思います。

もし「その推しの魅力をぜひ語って!」と言われたら、
あなたはどのように表現しますか?

やばい。
まじでやばい。
ほんとやばいんだって!

なんて表現になってませんか?(笑)

まあ、本当に好きなんだろうなあというのは伝わりますが、
「やばい」以外の言葉も使えたら、推しの魅力がより伝わるはずです。

自分の好きなものへの愛は、
自分の言葉で表現できたらいいと思いませんか?

今日ご紹介する本はこちら。

『「好き」を言語化する技術
推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』

三宅香帆
株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン

三宅さんは、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でおなじみの書評家です。
この本は、7月に私もご紹介しました。

◎田島の紹介は コチラ

こちらは先日、「書店員が選ぶ ノンフィクション大賞 2024」の大賞に選ばれました。
おめでとうございます!

さて、今回の『「好き」を言語化する技術』は、
タイトル通り「推し語り」に役立つ文章術が学べる一冊です。

三宅さん自身、アイドルや宝塚の「推し活」をしているそうですよ。

推し語りと言っても、私、語彙力無いしなあ…と思ったあなた!
三宅さんによると、語彙力や文章力はいらないそうです。

必要なのは、自分の感想を言葉にする「ちょっとしたコツ」で、
そのコツさえつかむことができれば、
自分の言葉で推しの素晴らしさを語れるようになるそうです。

コツにはいくつかあるのですが、
そのうちの一つに「自分の感情を一番大切にする」があります。

私もこれは大事にしています。
私、映画は一人で見たい派なのですが、
理由は、人の感想を聞く前に自分が感じた思いを大事にしたいからです。

誰かと見に行って、ワイワイ感想を言い合うのも楽しいのだけど、
帰りの車の中でひとり、映画について思いめぐらす時間が好きです。

また、ラジオで紹介したり、SNSに感想を書いたりする場合は
他の人の感想はなるべく見ずに、自分の感想をまとめてから、
色々な人の感想を読むようにします。
そうしないと他の人の意見に引っ張られてしまいそうになるので。

三宅さんも「他人の言葉に、私たちはどうしても影響を受けてしまう」と言います。

でも、いざ自分の言葉で書こうと思ったら、
それこそ「やばい」しか出てこない、とか、
ありきたりな表現しか出てこない、なんて方もいるかもしれません。

では、どうしたら自分の言葉で表現できるようになるのか。

その答えを知ることができるのが、この一冊です。

三宅さんは、「自分の好きな作品を語ることは自分の人生を語ること」と言います。

この一文を読んだとき、「たしかに!」と思わず声が出てしまいました。

自分の好きなものについて語ることは、
その人が感じていることや好みなどを語ることでもあるわけで、
つまりは、その人自身ってことですものね。

となると、やはり自分の思いや言葉は大事にしたくないですか?

私自身、毎週ラジオ(プラスこのブログ)で本の紹介をしていますが、
これぞまさに「推し語り」です。

私は書評家ではないですが、
三宅さんのおっしゃっていることは、
私自身大切にしていることが多かったので、
読みながら何度も頭の中で「そうそう」と頷いていました。(笑)
と同時に新たな気付きもあり勉強になりました。
私ももっとわかりやすく伝えられるよう、工夫していこうと思いました。

普段からラジオにメッセージを送ったり、
SNSやブログに自分の思いを投稿したりしている方は、
この本を読んでみてください。

この本を読んだ後は、きっとあなたの表現も変わるはず。

yukikotajima 9:30 am

『いのちをまもる図鑑  最強のピンチ脱出マニュアル』

2024年10月16日

10月になってだいぶ過ごしやすくなりましたね。
外を走ったり、お散歩をしたりする方を見かけることも増えてきました。
連休中はピクニックを楽しんだ方もいるかしれません。

でも、外で過ごす際は気を付けなければいけないことが色々とあります。

例えば、これからの季節はクマに注意が必要ですし、
突然、スズメバチが飛んでくることもあるかもしれません。
また、涼しくなったとはいえ、熱中症の心配もあります。

危険は意外と身近にあるものです。
では、どうしたらその危険から身を守ることができるのでしょう。

今日は、あらゆる危険から「いのち」を守る方法が学べる図鑑をご紹介します。

『いのちをまもる図鑑
最強のピンチ脱出マニュアル』

監修:池上彰/今泉忠明/国崎信江/西竜一
文:滝乃みわこ
イラスト:五月女ケイ子/室木おすし/横山了一
【ダイヤモンド社】

7月の発売以来、話題になっていますので、
すでにお読みの方もいらっしゃるかもしれません。

この本は、ジャーナリストの池上彰さん中心に、各分野の専門家が監修した、
あらゆる危険から「いのちを守る」方法が紹介された一冊です。

図鑑とありますが、ほぼ漫画です。
漫画や楽しいイラストで目で見て理解できるようになっていますし、
漢字にはフリガナもふってありますので、
お子さんでも楽しみながら読むことができます。
というか、どちらかというとお子さん向けです。

池上さんは、いのちを守るのは「正しい知識」と言います。
また、知識をアップデートすることも大事だと。

今では間違っている昔の常識もありますので、
大人の皆さんもこの本を読んで
最新の知識に上書きしていただけたらと思います。

たとえば、昔は鼻血が出たら上を向くといいと言われていましたが、
それだと鼻血が喉に流れるのでNGなんですって。知ってましたか?

さて、身の回りの危険といっても色々とありますが、
この本は、危険生物、自然・災害、ケガ・事故、犯罪、そして身の回り
の危険からいのちを守る方法が全部で76個紹介されています。

例えば、危険生物からいのちを守る方法では、
「クマが出た」「スズメバチが飛んできた」時の対処法がのっています。

ちなみに、自然界では「異世界に転生した気分で過ごす」のがいいのだとか。
くわしくはこの本を読んでいただきたいのですが、
それくらい危険が多いということです。

他にも「公園で遊んでいるときにカミナリが迫ってきたらどうしたらいい?」
といった自然災害から、
ケガや事故、不審者や闇バイトなどの犯罪、
今どきのフェイクニュースやSNSに関するものまで、
様々な危険を回避する方法が載っています。

中には「好きな人にふられたらどうしたらいいの?」や
「授業中トイレに間に合わなかったときは?」など、
なかなか人には聞きづらいけど知りたい、といったものも。

この「身近な危険」の対処法は大人の私も大変勉強になりました。
対処法がずばっとわかりやすいのがいいなあと思いました。

わからないことは怖いことです。
でも、いざという時にその対処法を知っていたら安心です。
まずは「知ること」が大事です。
お子さんはもちろん、大人の皆さんもぜひ読んでみてください。

yukikotajima 12:57 pm

『フェイク・マッスル』

2024年10月9日

来週の月曜はスポーツの日です。
あなたは普段から何か運動はしていますか。

ジムでトレーニングをしている方もいるのでは?
ダイエット目的や運動不足解消のために通っている方もいれば、
中にはムキムキの筋肉にあこがれてトレーニングをしている方もいることでしょう。

でも筋肉ってなかなかつかないんですよね。
脂肪はあっという間につくのに!

さて、今日はそんな筋肉にまつわる小説をご紹介します。

『フェイク・マッスル』
日野瑛太郎(ひの・えいたろう)
講談社

こちらは第70回江戸川乱歩賞受賞作です。

江戸川乱歩賞は、ミステリ作家の登竜門と言われる
日本推理作家協会が主催する新人賞です。

人気作家の東野圭吾さんや池井戸潤さんも江戸川乱歩賞の出身です。

そして、記念すべき70回目の受賞作が
今日ご紹介する『フェイク・マッスル』です。

日野さんは去年まで3回連続で最終候補に残り、
今年ついに受賞となったそうです。

おめでとうございます!

***

受賞作の『フェイク・マッスル』は、ある男性の筋肉にまつわる物語です。

人気アイドルの颯太(そうた)が、
たった3ヵ月のトレーニング期間で
ボディービル大会の上位入賞を果たします。

ファンや芸能界から祝福の声が寄せられる一方で、
「あれは偽りの筋肉だ」と、ドーピングを指摘する声も上がります。

ところが颯太は疑惑を完全否定し、
自身がプロデュースしたトレーニングジムオープンさせます。
そして自分がパーソナルトレーニングをおこなうと言います。

それに目をつけた某週刊誌は、
新人記者である健太郎に、疑惑についての潜入取材を命じ、ジムへ入会させます。

健太郎は早速、颯太のパーソナルトレーニングを受けようとするのですが、
受講するには条件がありました。
それは「ベンチプレスの重量80キロを挙げられること」です。
もちろん初心者の健太郎にはできるわけはありません。
そこで、颯太のパーソナルを受けるために、
健太郎はまずはトレーニングを頑張ることにします。

物語は基本的には、記者の健太郎の視点で進んでいきます。

根が真面目な彼は、潜入取材とは言えトレーニングもちゃんとします。
いつからか、トレーニングをすることが普通になっていき、
社内でも「なんか変わったね!」と言われるようになります。

私自身、本を読みながら筋肉やトレーニングについて学べて、
そういう意味でも楽しめたのですが、
この本は、一人の若者が筋肉をつけるためにジムに通ってみた!
という話ではなく、ジム通いはあくまでも潜入取材で、
本来の目的は、人気アイドル颯太の筋肉が本物かどうかを調べることです。

ですから健太郎もただジムに行って体を鍛えているだけではありません。
自分なりに、様々な角度から颯太の筋肉について調べていきます。

果たして颯太の筋肉は本物なのか。

この続きは本を読んでお確かめください。

***

面白かったです!
テンポもよく、スピード感もあって、あっという間に読めました。

主人公の健太郎がなんかいいのです。
頼りなさげで、でも真面目で。
決して派手なキャラではないのですが、
応援したくなる若者でした。

江戸川乱歩賞の選考委員の湊かなえさんが、
「潜入取材シリーズとなれば喜んで追っていきたい」
とおっしゃっていたのですが、私も全く同じことを思いました。
健太郎による潜入取材シリーズ、希望します!

さて、今週末は3連休です。
連休最終日はスポーツの日ですし、
スポーツにまつわる小説を読んでみるのもいいのでは。

ちなみに『フェイク・マッスル』を読んだ後、
私は運動をしたくなりました。
私の場合、筋トレではなく走ることですが。

yukikotajima 10:38 am

『少女マクベス』

2024年10月2日

ヨリミチトソラでは、毎週水曜の18時半過ぎから
このブログとの連動で本の紹介をしています。

また、毎月第一週は明文堂書店とのコラボでお届けしています。
今日は10月の1週目ということで、
本を愛する高岡射水店 書籍担当 野口さんのオススメ本の紹介です。

『少女マクベス』
降田天
双葉社

著者の降田天(ふるた・てん)さんは、
執筆担当の鮎川颯(あゆかわ・そう)さんと
プロット担当の萩野瑛(はぎの・えい)さんによる作家ユニットです。

これまで、第13回「このミステリーがすごい!」大賞や
第71回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞されています。

最新作『少女マクベス』は、演劇学校が舞台の学園ミステリです。
主人公は、女子生徒だけの演劇学校の3年生「さやか」です。

この学校には、脚本家や演出家などの作り手を目指す制作科と
演者を目指す俳優科があり、
さやかは制作科で劇作家を目指しています。

同学年には、同じく劇作家志望で天才と言われる「了」がいます。
了は生徒たちから神と崇められるほどでしたが、
ある日、自分の手がける演劇の上演中に舞台から転落死してしまいます。

この死は不幸な事故と片付けられたのですが、
事故の翌年に入学してきた新入生の「貴水(たかみ)」は、
みんなの前でこう宣言します。

「了の死の真相を調べに来ました」

そして、さやかは貴水に巻き込まれる形で、
了と関わりのあった生徒たちを調べていくことになるのですが、
それは、生徒たちの秘められた心の闇を暴いていくことでもありました。

果たして事故の真相とは。
また、それぞれの生徒たちが抱えているものとは。

その答えは、本を読んでご自身でお確かめください。

では、ここで明文堂書店 高岡射水店 書籍担当 野口さんのコメントをご紹介します。

才能とは持って生まれたものなのか、
はたまた努力の果てに辿り着くものなのか!?

一つの事件を巡って交差する証言と事実。
予想は裏切られました。
是非!今年最推しのミステリをお楽しみください!

***

私も裏切られました。(笑)

また、『少女マクベス』はミステリですが、
演劇を愛する少女たちの青春小説でもあります。

好きなことにまっすぐで、でも頑張っても思い通りにいかなくて、
挫折して、嫉妬して、落ち込んで、傷つけて、そして傷つけられて…。
野口さんもおっしゃっていますが、才能って何なんでしょうね。

一見華やかに見える少女たち一人一人が抱えているものが他人事とは思えず、
それぞれの気持ちが痛いほどわかりました。
本を読みながら心の中で何度「わかる」とつぶやいたことか。
ミステリとしての面白さはもちろんですが、
少女たちの青春小説としても読みごたえのある一冊でした。

ところで、本のタイトルにある「マクベス」は
シェイクスピアの四大悲劇のひとつですが、
マクベスと言えば、7月に紹介した『未必のマクベス』もマクベス絡みの作品でした。

またもやマクベス!と思いましたが(笑)、『少女マクベス』も面白かったです。

未必のほうは王が取り上げられていましたが、
こちらは魔女たちがクローズアップされています。

「ん?王?魔女?そもそもマクベスって何?」
という方でも楽しめますので、安心してお読みください。

公式サイトにはわかりやすいあらすじ漫画が載っていますので、
まずは予習がてらこちらから読んでみるのもいいかも。

◎公式サイトは コチラ

『少女マクベス』は、富山県内の明文堂書店全店
「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にもあります。

◎明文堂書店のサイトは コチラ

yukikotajima 12:05 pm

『雷龍楼の殺人』

2024年9月25日

毎週ラジオで本を紹介しているため、本についてよく聞かれます。
一番多い質問はこれ。

「本はどのように選ぶの?」

色々な選び方があるので答えは一つではないのですが、
富山が出てくる作品は手に取ってしまうことが多いです。

今日ご紹介する小説も舞台は富山です。

『雷龍楼の殺人』
新名 智
株式会社KADOKAWA

タイトルは「らいりゅうろうのさつじん」と読みます。

著者の新名さんは、2021年『虚魚(そらざかな)』
第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉を受賞し、デビューされました。

デビュー作は私も読んでいまして、ラジオでもご紹介しています。

◎ 『虚魚』の田島の紹介は コチラ

ホラーは苦手なはずなのに読むのがやめられず、
結局最後までページをめくる手が止まらなくなった一冊でした。

新作の『雷龍楼の殺人』も同じく一気読みをしましたが、
今回はホラーでは無く、純度100%の本格ミステリです。
しかも今年のミステリの大注目作なんだとか。

*

物語の舞台は、富山県の沖合に浮かぶ小さな島です。
その島には、かつて集落があったそうですが、
今は外狩家(とがりけ)の屋敷「雷龍楼」があるのみです。

ん?島に屋敷?そんなの富山にあったっけ?と思った皆さん!
私も思いました。(笑)
でも、物語ではリアルな世界とちょっと変えていることもよくあるので、
新名さんの描く富山はどんなところなんだろうと、
逆にワクワクしながら読み進めていきました。

ですから富山の皆さんは、そんなリアルな世界との比較も楽しめると思います。

さて、話を戻します。

その小さな島にある屋敷では2年前、密室で4人が命を落とす変死事件が起こります。
その事件で両親を失った中学生の霞(かすみ)は、
東京にいるいとこの穂継(ほつぐ)の家へ身を寄せているのですが、
ある日、霞は何者かに誘拐されてしまいます。

いとこの穂継は、誘拐犯から
「雷龍楼で『あるもの』を手に入れることができれば霞を解放する」
と言われ、屋敷へと向かいます。

しかし屋敷に到着した夜になんと殺人事件が発生!
それも2年前と同じ密室状態で。
さらに穂継は殺人の疑いをかけられてしまいます。

それを知った誘拐犯は、
このままでは目的のものが手に入らないばかりか、
警察に計画を知られてしまうと思い、
霞に「穂継の疑いを晴らしたければ協力しろ」と迫ります。

そして、霞は誘拐されたまま「完全なる密室殺人」の謎解きに挑むことになります。

果たして密室の謎は解けるのか。

*

物語は、誘拐された霞、富山にいるいとこの穂継、
そして、もう一人の三人の視点で進んでいきます。

また冒頭に「読者への挑戦」があるのですが、ここに意外なことが書かれています。
え、それ書いちゃっていいの?というようなことが。
その言葉をそのまま信じていいものか不信感でいっぱいのままページをめくり、
次々に沸き起こる疑問に対し、これは一体どういうこと?
と私なりの予想をしながら読み進め、
結構いい線いってるのでは?と思っていたのですが、
いやいや、予想できない展開が待っていました。

ああ、そこまでわかっていなかったわー!と悔しさをにじませつつ
最初のページから読み返してみました。

すると、最初はぼんやりとした印象しかなかった文章も
二度目は輪郭がはっきりしていて、
こんなにわかりやすく書かれているのに、
なぜ私は何も感じなかったんだ?と思わず苦笑いしてしまいました。

緩急のあるミステリで面白かったです。
特に最後のたたみかけるような勢いはすごかった!
文字を追う私の目の動きも1.5倍速でした。(笑)

あなたも富山が舞台の本格ミステリに挑んでみませんか?

yukikotajima 10:14 am

『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』

2024年9月18日

海なし県の群馬から富山に来てもうだいぶ経ちましたが、
富山に来てからよく食べるようになったものがあります。
それは、お寿司です。

スーパーのお寿司もよく買いますし、
お得な回転寿司のランチも好きです。
また、昔ながらの町のお寿司屋さんでお酒と共に味わうこともあれば、
時には高級なお寿司屋さんでコースをいただくこともあります。

高いお寿司はもちろん美味しいけれど、手頃なお寿司も好きです。
いずれにしても富山に来て、お寿司が好きになりました。

最近は「寿司といえば、富山」という
富山県のキャッチフレーズをよく耳にしますが、
あなたは、お寿司は好きですか?
そして、よく召し上がっていますか?

***

今日はお寿司に関する本をご紹介します。

『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』
岡田大介
ビジュアルだいわ文庫

先日、明文堂書店 高岡射水店に行ったら、
すし本コーナーができていました。

この本、5月の発売以来ずっとよく売れているそうです。

私もようやく読んでみました。

最初に言っておきます。
この本を読むと、きっとお寿司が食べたくなります。

私も読んだ翌日の昼に回転寿司に行ってしまいました。

だって写真のお寿司がどれも美味しそうなんですもの。
オールカラーで、どのお寿司も思わず手をのばしたくなるほどです。

著者の岡田さんは、すし職人でありながら、釣りも大好きだそうで、
この本では、すし職人目線と釣り人目線の両面から
すしの美味しさを紹介されています。

つまり『すし本』は、釣り好きのすし職人による「すし図鑑」です。
その数なんと107種類!
それぞれのすしダネが「すしのページ」と「魚のページ」にわかれていて、
お寿司だけでなく、魚そのものの姿を見ることができます。
また、魚の生態や釣り方、寿司の味わい方など
様々な角度から「魚とすし」について学べます。

私が心惹かれたのは、それぞれの魚の美味しい食べ方です。
例えば、マグロの赤身は塩・コショウで食べても美味しいそうです。

また、程よく塩茹でされたホタルイカは特別な味付けは不要なんですって。
酢飯とホタルイカだけで十分なんだとか。

そういえば、ボイルされたホタルイカは酢味噌や生姜醤油とはよく食べるけど、
酢飯と共に食べることって、あまりないかも。
来年の春、食べてみたい!

こんな感じでプロならではの食べ方を教えていただけます。

岡田さんには、あえて握らないネタもあるんですって。
写真を見ると、シャリの上に何ものっておらず、横にすしダネが並んでいます。
そして、食べ方も丁寧に書かれているのですが、
こんな食べ方があるなんて!と驚きつつ、
脳内で妄想しながら食べてみたら、確かに美味しかったです。(笑)

いったいそれは何?と気になる方はぜひ本を読んでお確かめください。

岡田さんは、「すし屋さんは、もっと気楽で、自由で、幸せな場所だ」と言います。
そして、『すし本』は「肩の力を抜いて、すしの美味しさを楽しんでいただきたい」
という思いを前提に書かれたそうです。

実際、とても読みやすかったです。
岡田さんのすし愛・魚愛にあふれた、
まるでそれぞれの魚たちへのラブレターのような一冊でした。
特にそれぞれの魚の美味しさの表現が素晴らしいので、
ページをめくる度、食べたくてたまらなくなりました。

お寿司がお好きな皆さん、ぜひ読んでみてください。
また、釣り好きな皆さんも。

yukikotajima 12:07 pm

『ツミデミック』

2024年9月11日

まだコロナは無くなっていませんが、
コロナ禍前の日常はだいぶ戻ってきましたよね。

とは言え、コロナ禍前とまったく同じかと言うと、
そうでは無いという方もいると思います。
中には生活そのものが大きく変わったという方もいるかもしれません。

別の仕事を始めたり、進学先を変えたり、
考え方そのものが大きく変わったりして、
コロナ禍前に描いていた未来とは
異なる道を選択した方もいることでしょう。

今日ご紹介する本にも、
コロナ禍で人生が思うようにいかなくなった人たちが出てきます。

『ツミデミック』
一穂ミチ
光文社

この夏、第171回直木賞を受賞した話題の短編集です。

一穂さんの短編集というと、
以前、直木賞候補になった『スモールワールズ』も私は好きです。

◎『スモールワールズ』の田島の紹介は コチラ

一穂さんの文章って、目の前に映像がくっきり鮮やかに見えるのです。
的確かつ素敵な表現で、
心の中のぼんやりとした思いや、目の前に見えるものが、
現実以上にしっかり感じられます。

例えるなら、視力矯正された眼鏡をかけたときのような感じです。

私があの時感じていたことは、言葉にするとこういうことなのかと、
自分の言葉にできなかった思いを
しっくりくる言葉で言語化してもらった感じです。

まあ、実際は物語の中の人の話ですから私自身の思いではないのですが、
一穂さんの作品に出てくる人たちは、
どこにでもいそうな身近な人たちなので、自分と重ねたくなるのです。

直木賞受賞作の『ツミデミック』も他人事とは思えませんでした。

本の帯に「パンデミック×犯罪」とあるとおり、
この作品は、コロナ禍が舞台の「犯罪」をテーマにした短編集です。

罪を描いているのに、他人事とは思えないってどういうこと?
と思うかもしれませんが、
本を読んでいると、そう思わずにはいられないのです。
だってみんな普通の人たちなんですもの。

さて、この短編集にはどんなお話があるのか、いくつかご紹介しましょう。

例えば、コロナ禍で仕事がうまくいかない夫から
「働いて少しでも金を稼いでくれ」と言われる妻の話。

夫がとても嫌な言い方をする人で、
妻はそんな夫に腹をたてつつも我慢しています。

そんなある日、たまたますれ違った
フードデリバリーサービスのイケメンにくぎ付けになり、
また会いたいがためにサービスを始めるのですが、
なかなか出会えず、利用回数も増えていき…。

この夫が本当にひどくて、
何でそんな言い方しかできないわけ?とイライラしました。
だからこそ、妻に対して、
いつかお目当てのイケメンがデリバリーしてくれたらいいね!
と思いながら読んでいたのですが…
この先の展開に、いやもうびっくりしました。
あまりにも衝撃的過ぎて、しばらく次の話が読めませんでした。
気になる方はぜひ読んでみてください。

他には、調理師の職を失って家に籠もりがちの男性の話もあります。
ある日、小学一年生の息子が近所の老人から旧一万円札をもらってきたことから
そのお礼というか、あわよくばもっとお金がもらえないかと期待して、
料理人らしく得意の澄まし汁を作って老人の家に持っていき、
そこから奇妙な交流が始まるというお話。

私はこの話が一番好きです。
つっけんどんな老人と調子のいい男性のやり取りは、
どこか『男はつらいよ』の寅さん的で。

最後は、ウイルスではなくパンデミックに人生を壊された人たちが集まって
一台の車に乗って出かけるという話。
いったい彼らの目的とは。

『ツミデミック』は、一冊にコロナ禍の人々の様々な感情が詰まっていました。

人生、いいこともあれば悪いこともあります。
人に傷つけられることもあれば、逆に傷つけてしまうこともあります。
完璧な人なんていないですからね。

この本を読んで、私自身、自分の過去を振り返って、
反省をして、そして感謝をして、ここからまた頑張っていこうと思えました。

一穂さんの本、やはり好きだわ。

yukikotajima 1:31 pm

『捨てられた僕と母猫と奇跡 心に傷を負った二人が新たに見つけた居場所』

2024年9月4日

あなたは何か動物は飼っていますか?

猫を飼っている方は、すでにこの本はチェック済みかもしれません。
今日は猫が出てくる本をご紹介します。

そして今日は9月の1週目の水曜日ですので、明文堂書店とのコラボ回!
本を愛する高岡射水店 書籍担当 野口さんのオススメ本です。

『捨てられた僕と母猫と奇跡 心に傷を負った二人が新たに見つけた居場所』
船ヶ山 哲(ふながやま・てつ)
プレジデント社

ちなみに野口さんも猫を飼っているそうですよ。

野口さんによると、この本は6月に発売されて以来、ずっと売れているそうです。

本の帯にはこう書かれています。

うつ病を発症した僕が、
子猫と引き裂かれた母猫テコと出会い、
救われた物語。

僕は過度なストレスがきっかけでうつ病を患い、仕事を休職します。

一方、猫のテコは子猫と引き裂かれたり、いじめられたりして、
心に深い傷を負っています。

ある日、僕は保護猫施設でブルブル震えるテコを見て、
守ってあげたいと思い、テコを引き取ることします。
そしてテコとの暮らしが始まります。

この物語は、そんな猫のテコと僕の日々が丁寧に綴られた一冊です。

ここで、この本をオススメされている
明文堂書店 高岡射水店 書籍担当 野口さんのコメントをご紹介します。

***

どんな時も変わらずに側にいてくれる存在は、本当にありがたいものです。

振り返ってみると、いつも何かの変わり目に
偶然のようでいて必然の出会いがあったように思います。

シンプルに大切なことを思い出すことのできる実話です!

***

そう、この物語は実話なんですって。
文章から、僕のテコへ向ける優しい眼差しが感じられました。
また、テコのことをとてもよく見ています。
というのもこの本は、僕の視点だけでなく、テコの気持ちも書かれているのです。
でも僕とテコの会話ではなく、
その時に感じたテコの思いが独り言のように物語にはさまれていきます。
お互い信頼し合っているものの、直接会話をしているわけではない、
この距離感がリアルでいいなあと思いました。

今日ご紹介した本は、
富山県内の明文堂書店 全店
「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にありますので、
ぜひお手に取ってみてくださいね。

◎明文堂書店のサイトは コチラ

yukikotajima 11:34 am

『眠れぬ夜のご褒美』

2024年8月28日

あなたは夜食を食べることはありますか?

私は時々食べます。

そんな時はなるべくあっさりしたものにしようと思うものの、
「遅くまで仕事を頑張ったし、今日はいっか!」
などと言い訳しながらカロリー高めのメニューを選びがちです。

ちなみに私が夜食によく食べるのは、冷凍のたこ焼きです。

料理を作る気力もない。
でもあたたかいものが食べたい。
それも満足できるものが。
となると、冷凍のたこ焼きになるのです。

アッツ〜と言いながら、ビールとともに頂くのが至福の時間です。

ですが、困ったことに夜食に食べたいものが増えてしまいました。
この本を読んだせいです。(笑)

『眠れぬ夜のご褒美』(ポプラ文庫)

標野 凪(しめの・なぎ)
冬森 灯(ふゆもり・とも)
友井 羊(ともい・ひつじ)
八木沢 里志(やぎさわ・さとし)
大沼 紀子(おおぬま・のりこ)
近藤 史恵(こんどう・ふみえ)

この本は、美味しいものが大好きという
6人の作家さんたちによる短編集です。

なんといっても『眠れぬ夜のご褒美』という
本のタイトルからして心惹かれます。

眠れぬ夜ということは、きっと色々あって眠れないわけです。
でも、そこにご褒美があるのです。

本の帯にはこうあります。

一日頑張ったあなたをいたわる、とっておきの「夜食」をどうぞ。

そう、ご褒美は「夜食」です。

その夜食がどれも美味しそうで、読んでいるだけでお腹は減るし、
食べたくなってしまいます。

例えば、どんな夜食…いえ、お話があるかというと、

・終電を逃した女性がたどり着いたある場所にまつわるお話。
そこには、ある秘密の合言葉を言わないと入れません。

・不眠が続いている男子大学生が、ある日の深夜、
同級生から「今からラーメンを食べに行こう」と誘われるお話。

・古い友人たちと真夜中のファミレスに集っておしゃべりをする
40代の女性たちのお話。

・「正しい食べもの」を好む夫に
インスタントの激辛ラーメンを食べたいと言い出せず、
深夜にひとりでこっそり食べようと試みる女性のお話。

などがあります。

中でも深夜のファミレスの女性たちのおしゃべりは、
まるで自分も仲間のひとりの気分でした。
そして、とても楽しい時間でした。

というのも、彼女たちは「なる褒め」、
つまり、なるべく褒め合うようにしているのです。
なぜなら、褒められることに飢えている世代だから。
わーかーるー!(笑)
「なる褒め」、ほんと大事です。

それから、一番印象に残ったのは終電を逃した女性の話です。
主人公も物語もいったいどこに向かっていくのかしら、と
先が見えないからこそのドキドキ感がありましたし、
最後はほろりときました。

***

登場人物たちは、それぞれ仕事でトラブルがあったり、失恋したりと
何かしら心に抱えているものがあります。
だから眠れぬ夜になっているわけです。

この短編集は、そんな彼らのある夜が描かれた一冊です。
それもお話ごとに別の作家さんが書いていますので、
全くタイプが異なります。そこがいいのです!

お腹は間違いなく空きますが、
代わりに心は満たされると思います。

私は一晩で一気読みしてしまいましたが、
できれば一晩につき一話だけ、
毎晩の夜食を味わう気分で読んでみてください。
時には物語に出てきた夜食を食べながら。(笑)

それこそ、この本があなたの眠れぬ夜のご褒美になるかも。

yukikotajima 11:43 am

『今夜、喫茶マチカネで』

2024年8月21日

お盆も終わりましたね。
実家に帰省された方もいると思いますが、久しぶりの故郷はいかがでしたか。

昔から変わらないものにホッとした一方で、
変わってしまったものに寂しさを感じたという方もいるかもしれません。
例えば、昔よく行っていたお店が無くなっていてショックだったとか。

今日ご紹介する本も、お店を閉めることにした書店と喫茶店のお話です。

『今夜、喫茶マチカネで』
増山 実(ますやま・みのる)
集英社

私は増山さんの作品は好きで、これまで色々と読んでいます。
特に好きなのは『波の上のキネマ』です。
こちらは私が2018年に読んだ本の中で一番面白かった本に挙げた作品です。

◎『波の上のキネマ』の紹介は コチラ

『波の上のキネマ』は、商店街のはずれにある小さな映画館の物語でしたが、
『今夜、喫茶マチカネで』も商店街が舞台です。

「喫茶マチカネ」は、大阪の待兼山(まちかねやま)駅の
駅前の書店の2階にある喫茶店です。
書店も喫茶店も昭和29年にオープンし、
その後、息子たちがそれぞれお店を継ぎます。
しかし残念ながらどちらも閉店することを決めます。

というのも、店の名前にもなっている「待兼山駅」の駅名が変更されることになり、
待兼山という名が使われなくなるなら、このあたりで潮時かなと、
閉店を決めたのでした。

そんな中、常連客の一人がこんな提案をします。

待兼山駅の名前と町の記憶を残すために、
閉店までの間、みんなで集まって街について話をして、
それを本にしませんか、と。

そして、喫茶マチカネは、閉店までの半年間、
毎月11日午後9時から、この街で経験した不思議な話を語り合う会
「待兼山奇談倶楽部」を発足します。

せっかくなら単なる思い出ではなく、ちょっと不思議な話をしようと、
奇談倶楽部になったのでした。

そして、4月から9月まで毎月1回、
街にゆかりのある方たち、
例えば、カレー屋さんのご主人、
20年前の学生時代に街に住んでいた女性、
そして食堂のおばあちゃんなどが、とっておきの話を披露していきます。

毎月一人ずつ、みんなの前で話をしていくのですが、
どの方のお話もとても面白くて、毎回引き込まれてしまいました。

また、面白いだけでなく、考えさせられるお話が多いのも印象的でした。
例えば街の過去の話となると、戦争の話も出てくるわけです。
過去の話は美化されがちですが、美談ばかりが語られるわけではありません。
だからこそリアルなのです。
本音を語る人たちの言葉って、まっすぐに心に響くもので、
時にはちょっと不思議な話もあったりするのですが、
そういうこともあるかもしれないよね、と思わされてしまいます。

皆さんが何を語るかは本を読んで楽しんで頂きたいので、あえて触れません。
ぜひあなたも喫茶店のドアを開ける気分で本を開いて、
皆さんの話に耳を傾けてみてください。

まるで会に参加している気分で楽しめますよ!
そう、まさにそこにいる気分になれます。
私が増山さんの作品の好きなところは、この没入感です。
客観的に本を読み始めても、気付けば作品の世界に入り込んでいるのです。
今回もすっかり喫茶マチカネの常連客のひとりの気分でした。

それから、この作品は、ビートルズやビリー・ジョエルなど、
登場人物たちの思い出の曲がたくさん出てくるのもポイントで、
私の頭の中ではずっと音楽が鳴っていました。

そういう意味でも、いつもラジオを聴いているリスナーの皆さんと、
この本は相性がいいと思います。

まさに音楽やお喋りなど、ラジオのように音が聞こえてくる一冊です。
文章のリズムも心地いいので読みやすいと思います。

でも、さらっと流れていくのではなく、ちゃんと心に残ります。
また、思いがけずドキリとすることも。
ハッとさせられたり、えっ?と思ったり。
そんなスパイスも含め、お楽しみください。

それにしても、こうやって街の過去について、
みんなで順番に話していくの、面白そうだなー。
知っているようで知らないことって結構ありそうだし。
それに時には不思議な話もあるかもしれないし。

yukikotajima 11:09 am

『知りたいこと図鑑』

2024年8月14日

8月も中旬ですね。
お子さんたちは、夏休みの宿題の進み具合はどんな感じですか。

今日ご紹介する本は、
夏休みの自由研究どうしよー!というお子さんにも、
いろいろ学び直しをしたい、という大人にも、
お盆休み、暇だなあ…という方にもおすすめの一冊です。

『知りたいこと図鑑』
著者:みっけ
株式会社KADOKAWA

この図鑑は発売からまもなく1年が経つのですが、
ラジオでおなじみの明文堂書店 高岡射水店 野口さんによると、
ずっと売れ続けている人気の本だそうです。

著者の「みっけ」さんは、デザインが好きで
知りたいこと、楽しいことを作品にしてSNSに投稿している方です。

この図鑑は、『知りたいこと図鑑』というタイトルのとおり、
様々なジャンルの知りたいことを知ることができる一冊なのですが、
ただの図鑑ではありません。

なぜなら、見ても楽しめるから。

この図鑑は、みっけさん自身が知りたいことを
デザインと組み合わせて表現したものを一冊の本にしたもので、
3つのパートに分かれています。

まずは「日常の教養」です。
例えば、洗濯表示、お肉の部位、コーヒーの種類などのほか、
夜明けと夕暮れをあらわす言葉、涙をあらわす日本語なんてものもあります。

次は「大人も覚えておきたい学習」のパートで、
国の名前、首都、国旗、元素などの項目があります。

最後は「毎日を彩るおしゃれ知識」です。
こちらでは、誕生石、香りの種類、星座などについて知ることができます。

その数、なんと142作品です。

なんで「作品」なのかというと、
すべての項目がイメージにあわせたデザインで表現されているからです。

それも、ページをめくる度、「次はこうきたか!」
と突っ込みたくなるユニークなデザインなので、
見ているだけでも頭の中がほぐれていく感じで楽しめます。

*

例えば、ヨリミチトソラっぽい雑学で言うと、
「夜明けと夕暮れをあらわす言葉」は、スマホのホーム画面をモチーフに、
それぞれの空の写真と言葉がアプリの用に並んでいて、とても素敵です。

夕暮れをあらわす言葉には、
「雀色時(すずめいろどき)」「暮紛れ(くれまぎれ)」
なんてものもあるんですって。

ヨリミチトソラの放送中「ちょうど今は雀色時ですね」なんて言ってみたい!

日本語つながりだと、表紙のデザインにも使われている「雨をあらわす日本語」は、
飴をモチーフに、飴の袋に雨をあらわす日本語とその説明が書かれています。

*

思わず笑ってしまったのは、「臓器の位置とはたらき」です。

だって、モチーフがスカジャンなんですもの。
人の臓器が書かれたスカジャン、かなりインパクトがあります。

さらに、それぞれの臓器にいたっては、名刺をモチーフにしていて、
例えば「心臓」は、「株式会社ひと」の一人で、
「全身に血液を送り出すポンプ担当」とあります。

ってことは、私は株式会社 田島悠紀子の社長で、
それぞれの臓器は従業員ってことか。
それなら、もっといたわらなきゃいけないなあと思ったりして、
そんな妄想も楽しい時間でした。

*

普通の図鑑とは違って、ユニークなデザインありきなので
見ているだけでも楽しめます。

ですが、もちろん見て終わりではなく、しっかりと学ぶこともできます。

私が、へえと思ったのは「ハットの種類」「メガネの種類」などです。
たしかにハットもメガネも色々な形があるよなあ、と勉強になりました。

*

それから、この図鑑はクイズ本としても楽しめます。

クイズ形式になっているわけではないのですが、
項目によっては、周りのひとにクイズを出したくなるのです。

例えば「略語」の項目から一問。

「ワイシャツ」は何の略語でしょう?

正解は…

「ホワイト・シャツ」です。

*

といった具合に、いろいろな楽しみ方が出来ますので、
お盆中、この本が家にあるだけでも、結構盛り上がれるのではないかしら。

また、お子さんは自由研究のヒントを見つけることができるでしょうし、
大人の皆さんは学び直しにぴったりです。

ちなみに、図鑑ですが単行本くらいのお値段なのも魅力的です。

あなたも一家に一冊いかがでしょう。

yukikotajima 11:32 am

『星影さやかに』

2024年8月7日

原爆が投下されて79年を迎えた広島では、
昨日、平和記念式典が行われました。
明後日は長崎の原爆の日です。
そして、来週の木曜日、8月15日は終戦の日です。

戦争関連のニュースに触れることの多い8月は、
今一度、戦争について考えてみませんか。

今日ご紹介する本も戦争に関する小説です。

そして今日は8月最初の水曜日ですので、明文堂書店とのコラボ回!
本を愛する高岡射水店 書籍担当 野口さんのオススメ本です。

『星影さやかに』
古内一絵
文春文庫

ちょうど今パリではオリンピックが行われていますが、
物語は、東京オリンピックがおこなわれた直後の昭和39年の東京から始まります。

主人公は羽田の町工場で働く28歳の良彦です。
彼のもとに亡き父の日記が届きます。

父は戦時中に周囲から「非国民」と言われて心を病み、
戦争が終わった後もずっと自分の部屋にこもっていました。
そして、良彦はそんな父のことを恥ずかしいと思っていました。

ですが、良彦は亡き父の日記を読んでみることにします。
いったいそこにはどんなことが書かれているのか。
そもそもなぜ父は非国民と呼ばれていたのか。

*

物語は、良彦の少年時代にさかのぼります。
良彦が暮らしていたのは、宮城県の農村です。
部屋にこもってばかりの父に、母、妹、
そして母にも自分にも厳しい祖母の多嘉子と暮らしていました。

最初は良彦の視点で進み、
後半に母親、そして父親の視点も加わり、
私たち読者は、父や母の心の中を知ることなります。

父が非国民と呼ばれた理由をはじめ、
祖母にきつく当たられている母が祖母を悪く言わない理由、
今はいない祖母の夫についてなど、
読み進めるうちに、いろいろなことがわかっていきます。

『星影さやかに』は、戦争のお話でもあり、家族のお話でもあります。
お盆に久しぶりに家族で集まる方もいらっしゃることと思います。
ぜひこの夏は、家族の昔話や戦争のお話を
親御さんやおじいちゃん、おばあちゃんに聞いてみてはいかがでしょう。

意外な事実や想いに触れることがあるかもしれませんよ。

その前に、ぜひこの本を読んでみてください。
この本を読めば、きっと自分自身の家族のことを聞いてみたくなると思います。

では、ここで、この本をオススメしている
明文堂書店 高岡射水店 書籍担当 野口さんのコメントをご紹介します。

***

戦争を背景に描かれる家族三代の物語。
大人になって、初めてわかる両親や祖父母の想い。
ただ必死に生きる姿に感動します。
女性たちの強さや、たくましさも引き立つ作品です。
お婆さんの多嘉子さん、カッコいいです!
終戦の日を前に、是非お読みください。

***

多嘉子さん、たしかにかっこよかったです。
子どもには、ただただ怖いだけのお婆さんにうつるかもしれないけれど、
一本筋が通っていて、ぶれない強さがあるのです。
いちいち言い訳しないところも素敵です。

ちなみに、この物語は、著者の古内さんの家族がモデルなんだとか。
主人公の良彦は古内さんのお父様なんですって。

また、宮城の方言や文化なども印象的な物語でした。

まさに8月の今読むのにぴったりな一冊です!
文庫でお求めやすいですし、ぜひ。

今日ご紹介した『星影さやかに』は、
富山県内の明文堂書店 全店
「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にありますので、
ぜひお手に取ってみてくださいね。

◎明文堂書店のサイトは コチラ

yukikotajima 11:23 am

『告白撃』

2024年7月31日

もうすぐお盆ですが、
お盆休み中に学生時代の友人たちと会う予定で、
久しぶりにみんなで集まれるのが楽しみ!
という方もいるのでは?

今日ご紹介する本も学生時代からの友人たちの物語です。

『告白撃(こくはくげき)』
住野よる
株式会社KADOKAWA

住野よるさんは、2015年に『君の膵臓をたべたい』でデビューした人気作家さんです。
映画化もされた話題作ですが、なんと累計部数は300万部を突破したのだとか。すごい!

私はデビュー作はもちろん、他の作品も色々と読んでいまして、
ラジオでも紹介してきました。
好きな作品は『よるのばけもの』です。

私がこれまでに読んだ住野作品の主人公は、
小学生から高校生の若い世代が中心だったのですが、
今回の『告白撃』は30歳前後の大人たちのお話でした。
それも恋と友情の物語です。
ですが恋に関していうと、ちょっと変わっています。

だって本の帯にこう書かれていたのですもの。

親友に告白されたい。
そして、失恋させたい。

ん?告白されたいのに失恋させたいってどういうこと?
と帯を読んだ瞬間から気になり、さっそくページをめくってみました。

主な登場人物は6人の男女です。
彼らは大学時代に出会い、卒業後の今も友人関係が続いています。
中でも千鶴と響貴(ひびき)の二人は、学生時代から仲のいい親友です。
ですが、千鶴は男友達の響貴が自分に片思いをしていて、
それを隠し続けていると思っています。
でも、彼女はその思いにこたえることはできません。
なぜなら付き合っている彼氏と婚約したから。
そこで、響貴に告白させて断りたいという作戦を考えます。

え、何それ?性格悪すぎでしょ…と思ってしまいそうですが、
これにはちゃんと理由があります。
響貴が自分への想いを引きずらず、前に進めるようになることを願っての作戦なのです。
なんだかふざけた作戦にも思えますが、千鶴はいたって真剣です。

この告白大作戦には共通の友人が
呆れながらも協力してくれることになったのですが、
果たしてうまくいくのか。
そもそもどうやって告白させるつもりなのか。

この続きは、ぜひご自身でお確かめください。

***

正直、本のタイトルと帯を見た時は、どんなお話よ?と思いましたが、
いい意味で裏切られました。
本を読んでいる間は私も友人の一人の気分で、
一緒に笑ったりドキドキしたりしながら楽しめました。

この物語はとにかく会話のテンポが良くて、
友人同士の会話が、言葉のチョイスや間も含め絶妙なのです。
仲が良いからこその距離の近さで。

また、仲が良いグループでも
みんなでいる時と、一対一でいる時では
なんとなく空気感も変わったりしますが、
そういう些細な変化も本当にリアルで、
あらためて住野さんは、人の心の中を丁寧に描く作家さんだなと思いました。

設定はめったにないことかもしれないけど、感情面はいたって現実的で、
ひとりひとりの気持ちや判断が、それぞれ印象的でした。

この作品もきっと映像化されそうだなあ。
というか、してほしいわ。
テンポのいい会話を実際に聞いてみたい!

夏はお盆休み中に学生時代の友人に久しぶりに会うなど、
青春時代を思い出しがちな季節でもありますよね。
そんな今の季節にぴったりの小説です。

彼らと一緒にお酒を飲みながら楽しんでいる気分で読んでみてください。
ちなみに、住野さんによると、住野よる史上最も酒量の多い作品だそうです。(笑)

yukikotajima 11:13 am

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

2024年7月24日

ヨリミチトソラでは、毎週水曜の18時32分ごろから
このブログとの連動で本の紹介をしています。

ラジオで私の本紹介を聞いて、読んでみたいと思いながらも
仕事が忙しくて全然読めていない、という方はいませんか。

今日は、まさに仕事に追われて読書が楽しめなくなった、
という方によって書かれた本をご紹介します。

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
三宅香帆(みやけ・かほ)
集英社新書

著者の三宅さんは、1994年生まれの文芸評論家です。

本が読めないことが前提なのは、
本好きの私としては、悲しすぎる…と思ったのですが、
この本は、読めない理由だけが書かれているわけではありません。

実際、三宅さん自身、本が大好きなのに、
働くようになってから本が読めなくなってしまったそうです。
気付いたらスマホばかり見ていたと。
なぜこんなことになってしまったのか、いろいろ調べた結果、
ある答えにたどり着いたそうです。

三宅さんは、読書だけでなく、趣味や好きなことなど、
人生に必要不可欠な文化的な時間が
労働の疲労によって奪われていると言います。
そう、現代人はみんな仕事で疲れすぎているのです。

でもこれまで日本人は働きながら本を読んできたわけです。
どうやって、それができていたのか。
この本では、明治から令和にかけての労働と読書の歴史を追いかけながら、
その問いについて考えています。

具体的な作品を例に挙げながら、
その時代によく読まれた本にはどんな傾向があるのか、
わかりやすく解説されているので、
なるほど、そういうことか!と理解しやすく、
楽しみながら読むことができました。

例えば、70年代には、文庫が創刊されるようになり、
通勤電車の中で読むスタイルが根付いていったそうです。
なお、この時代、人気だったのは、司馬遼太郎さんの作品です。

80年代になると、黒柳徹子さんの『窓ぎわのトットちゃん』をはじめ、
村上春樹さん、俵万智さんなどの作品が何百万部も売れる時代になります。

ちなみに、これらの作品に共通していること、わかりますか?
それは「一人称視点」であるということ。
80年代には「社会」ではなく、「自分」の物語が増えていったそうです。
そして、コミュニケーション能力が重視されるようになっていったのだとか。

そして、令和の今は、自分には関係のないこと、
著者はそれを「ノイズ」と言っているのですが、
そのノイズを受けいられなくなっている人が増えているそうです。

でも、三宅さんは、ノイズを受け入れることが大事だと言います。
自分とは異なる価値感や情報に触れることが。

そして、読書こそノイズだと。

でもどうしたら、ノイズを受け入れられるようになるのか。
三宅さんは、この本の中である提案をしています。

それこそが結論なのですが、これがとてもいい提案でした。

三宅さんの探し出した答えとは?
気になる方は、ぜひ本を読んでお確かめください。

また、人気映画の『花束みたいな恋をした』が多く引用されていますので、
この映画がお好きな方もぜひ読んでみてください。

大変興味深く面白い一冊でした!
本への愛はもちろん、人への思いやりが感じられる文章なので、
気持ちよく読むことができました。
本の歴史を知ることができたのも楽しかったです。

yukikotajima 11:27 am

『マリリン・トールド・ミー』

2024年7月17日

毎週水曜のヨリミチトソラでは、18時30分ごろから、
このブログとの連動で、本紹介コーナー「ゆきれぽ」をお届けしています。

ヨリミチトソラのサイトは コチラ

今日ご紹介する本は、富山出身の作家、山内マリコさんの小説です。

『マリリン・トールド・ミー』
山内マリコ
河出書房新社

タイトルのマリリンというのは、「マリリン・モンロー」のことなのですが、
あなたは彼女に対してどんな印象をお持ちですか?

この本を読むと、マリリンの印象が大きく変わると思います。

主人公はコロナが流行り始めた頃に大学生になった杏奈(あんな)です。
コロナ禍でひとりぼっちで過ごしている彼女のところに、
ある日、伝説のハリウッドスター、マリリン・モンローから電話がかかってきて、
いろいろな話をします。

その後、ようやくキャンパスに通いはじめた杏奈は、ジェンダー社会学のゼミに入り、
卒論で「マリリン・モンロー」について書くことにし、研究を始めます。

そして調べれば調べるほど、電話で話したマリリンと、
雑誌や本に書かれたマリリンの印象が大きく異なることに気付きます。
また、60年前のマリリンに共通点も見つけます。

いったいそれらはどういうことなのか。

今日のヨリミチトソラでは、著者の山内マリコさんにお電話をつないで、
今回、マリリン・モンローのことを書こうと思った理由をはじめ、
近況や今執筆中の新作についてお話いただきます。

放送は今日の18時30分ごろからです。
ぜひお聞きください。

***

この本、とても面白かったですし、大変勉強にもなりました。

杏奈は大学でジェンダー社会学のゼミに入るのですが、
本を読みながら私自身もゼミ生の一人として学んでいる気分でした。

今は時代が変わって、昔良かったことでも今はNGということはたくさんあります。
そして、それを理解できている人と、
全くついていけていない人の間に大きな差が生じています。

あ、自分は後者だ…と、今ドキリとした方はいませんか?

それこそマリリンといったらセクシーな女性だよね、
と思っている人はぜひ読んでください。

生まれ育った時代も環境も全く異なる女性二人の物語、とても良かったです!

読み終えた後、あらためて本の表紙のマリリンを見ると、
きっと最初とは全然印象が異なると思います。

yukikotajima 10:33 am

『アルプス席の母』

2024年7月10日

今日このあと15時半から夏の全国高校野球富山大会の開会式が行われます。
今年は43校40チームが出場し、13日(土)に1回戦が行われます。
そして27日(土)に決勝が行われる予定で、
優勝チームは8月7日(水)に開幕する夏の甲子園大会に出場します。
今年富山県代表として甲子園に出場するのは、どのチームになるでしょう。
高校球児たちはもちろん、親御さんたちにとっても大事な夏が始まりましたね。

今日ご紹介する本は、高校球児の母の物語です。

『アルプス席の母』
早見和真
小学館

高校野球の物語ですが、主人公は選手ではなく「母」です。

夫を事故で亡くした奈々子は、神奈川で看護師をしながら
中学生の航太郎と二人で暮らしています。

子どもの頃から野球が大好きな航太郎は、
地元のシニアリーグで活躍するほどに成長します。
高校は大阪の甲子園常連校で野球をしたいと思っていたのですが、
残念ながら声がかからなかったため、
声をかけてくれた大阪の別の高校に行くことにします。

彼が進学した高校は、女子高から共学になって6年で、野球部の歴史も同じです。
でも、最近はそこそこの結果を出しており、
監督は本気で甲子園出場を目指しています。
航太郎は、この監督から声をかけてもらったのでした。

さて、高校進学を機に航太郎は野球部の寮に入るのですが、
なんとそのタイミングで、母の奈々子も息子と共に大阪へと移り、
学校の近くで生活を始めます。

そして、奈々子は野球部の親たちの会「父母会」に入ることになるのですが、
この会がとんでもない場所だったのです。
厳しすぎる掟をはじめ、理不尽なことだらけです。

親たちは、子どもたちの野球の実力だけでしか他の親を見ておらず、
親自身には興味を示しません。
そして、みんなピリピリしています。
監督の態度も酷く、最悪の雰囲気です。

また、大阪弁にも、距離の近い大阪の人たちにも慣れないし、
息子とも全く会えないしで、奈々子はめげそうになりながらも、
たった2年だしがんばる!と自分に言い聞かせます。

そう、高校生活は3年間ですが、部活動は実質たった2年なのですよね。
そう考えると短い!

誰も知り合いのいない大阪での一人暮らしが始まった奈々子と
寮暮らしが始まった息子の航太郎。

果たして二人にはこの先どんな日々が待っているのでしょう。
無事甲子園には出場できるのでしょうか。
続きは、本を読んでお確かめください。

***

私は子どももいないし、高校野球のことも詳しくないけど、
そんな私でも夢中で読んでしまいました。

私も奈々子と同じように、泣いて、笑って、怒って、心配して、応援していました。
今じゃすっかり奈々子は私の友人で、
航太郎は私の甥っ子のような気持ちです。(笑)

子どものいない私でも楽しめましたが、
お子さんが野球をしているお母さんはもちろん、
野球以外の部活や習い事をサポートしている親御さんは、
この作品をより自分のこととして楽しめると思います。
共感したり、そこは違うなあと思ったりしながら。
日々いろいろ思うことがありながらも我慢している親御さんは、
この本の中に仲間を見つけられるかも。

また、野球をしている中高生もぜひ。
この本には思い通りにいかない球児たちも出てきます。
そんな彼らから学ぶこともきっとあると思います。

夏の高校野球シーズンの今の時期にぴったりの一冊です。
さっそく今週末にでも読んでみてください。

読んだ後はきっと甲子園の見え方が変わるはず。
私は球児たちはもちろん、親御さんたちのことも気になってしまいそうです。

親たちの甲子園も熱いっ!

yukikotajima 12:18 pm

『未必のマクベス』

2024年7月3日

今日は7月の一週目の水曜日ですので、明文堂書店とのコラボ回です。

毎月、本を愛する高岡射水店 書籍担当 野口さんのオススメ本をご紹介していますが、
今回は野口さんだけでなく、北陸の書店員さんたちの推し本でもあります。

これは、北陸のとある書店員さんの「北陸の書店を元気にしたい」
という思いに共感した北陸3県の書店がタッグを組んで、
「心揺さぶられる名作」を推そう!というもので、
今日ご紹介する本は、その、とある書店員さんの推し本です。

『未必のマクベス』
早瀬耕(はやせ・こう)
ハヤカワ文庫

2014年9月に早川書房から単行本として発売され、
当時話題になりましたので、お読みになった方もいるかもしれません。

私は、今回初めて読みました。

タイトルの「マクベス」は、シェイクスピアの四大悲劇の一つです。

マクベス?
聞いたことはあるけれど、どんな話かわかならい…
という方でもご安心ください。

私もそんな一人でしたが、問題ありませんでした。
と言うのも、どんな話か小説の中で紹介されるのです。それも何度も。

物語は2009年のマカオから始まります。
主人公は、東南アジアを中心に交通系ICカードの販売に携わる38歳の男性、中井です。

彼はバンコクでの商談を成功させたあと、マカオを訪れるのですが、
そのマカオでひとりの女性から「あなたの未来を教えてあげる」と、こう告げられます。

「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」と。

商談を成功させた中井は、その直後、
香港の子会社に代表取締役として出向することになります。

まさに会社のトップとして海外での勤務が始まり、
これぞ王としての旅ってことか。なんて優雅な旅!と思いきや、
社内には複数のマイクが隠され、常に盗聴されているし、
秘書からは「誰を信用し、誰を警戒すべきが調べたほうがいい」と言われるなど、
犯罪のニオイがプンプンします。

私も新たな登場人物に出会う度、
この人は信用していいのかしら?と疑い続けながら
本のページをめくっていきました。
また、中井自身もそっちに行くのは危険だよ…
という方に進んでいってしまいます。

果たしてこの物語は、というか、中井はどこに向かっていくのか。
ぜひあなた自身の目でお確かめください。

では、ここで明文堂書店 高岡射水店 書籍担当 野口さんのコメントをご紹介します。

「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」。
この一文が、この小説を読みたい!と思えたきっかけでした。
壮大な歴史もの?
ミステリー?
シェイクスピア?

この小説の幕が開いたら
たぶんきっと、たぶん
巻き込まれてしまいます。
異国情緒ただよう何とも魅惑的な小説です。

約6年ぶりに再読しました。
北陸から全国へ
願いが届きますように!

***

まさに私も巻き込まれた一人です。
あなたも巻き込まれてみませんか?

それから、別の意味でも私自身、この作品に巻き込まれました。(笑)

というのも、主人公中井の元上司の名前が「たじまゆきこ」なのです。

ふざけているわけではありません。
漢字は違うのですが、なんと私と同じ名前でした。
もうびっくりですよ!こんなの初めてです。

中井がインターネットで「たじまゆきこ」を検索したら
他の「たじまゆきこ」が出てきたという場面があるのですが、
多分その中に私の名前もあったはず、
なんて勝手に妄想して楽しんでしまいました。

さて、このたじまさん含め、中井の周りには様々な女性たちが登場します。
特に高校時代に出会った同級生のことは、卒業後20年経った今も忘れていません。

物語には、中井の高校時代のお話もあるのですが、
犯罪の世界の緊張感とはまた別のドキドキ感がありました。

そう、この小説は、犯罪小説でありながら、恋愛小説でもあるのです。

10代の頃、思いを伝えることは無かったけど好きだったなあ、という人、
あなたにもいませんか?

この夏、そんなあなた自身の過去も思い出しながら、
『未必のマクベス』を読んでみてはいかがでしょう?

東南アジアの熱気や匂いなどのリアルな空気感と共に、
この夏忘れられない一冊になるかもしれませんよ。

あと、きっと中井のお気に入りのカクテル、
キューバリブレを飲んでみたくなるかも。

私は飲んでみたい!

いつかこの作品、映画化される予感がするわ。
中井は、長谷川博己さんに演じてほしいな。

野口さんをはじめ、北陸書店員の皆さんの推し本、『未必のマクベス』は、
富山県内の明文堂書店全店の「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にもあります!

◎明文堂書店のサイトは コチラ

yukikotajima 1:59 pm

『青い壺』

2024年6月26日

毎週水曜は、ヨリミチトソラの中で本の紹介をしています。
(このブログとの連動で、毎週水曜18時32分ごろから放送)
基本的には新しい本を中心に選んでいますが、
今日は50年近く前に書かれた本をご紹介します。

『青い壺』
有吉佐和子
文春文庫

実はこの本が今、ブームとなっているのです。

1976年に雑誌に連載され、翌年単行本化されたものの、一度絶版に。
その後、2011年に復刊され、じわじわと売れ続けていたそうですが、
去年、『三千円の使いかた』でおなじみの原田ひ香さんの
本の帯への推薦コメントをきっかけに一気に売れ始めたのだとか。
また、今年は有吉さんの没後40周年ということもあり、注目されているようです。

私も実際に読んで、ブームとなっている理由がわかりました。
だって、とても面白いんですもの!

昔の本と言うと、読みにくそう…と思われそうですが、
全くそんなことはありません。
『青い壺』は読みやすい上に、すこぶる面白いのです。

***

物語の舞台は、昭和の高度成長期の日本です。
無名の陶芸家が美しい「青磁の壺」を生み出します。
その青い壺が、売られたり、プレゼントされたり、盗まれたりしながら、
様々な人の手をわたっていきます。

物語は、13編からなる連作短編集で、
壺を手にした人や、その周囲の人たちのことが描かれています。

例えば、定年後の夫が邪魔で仕方ない妻、
老いて目が見えなくった母親と暮らし始めた独身女性、
スペインで掘り出しものを見つけた美術評論家の男性など、
様々な人が登場します。

そして、いつも誰かのそばに青い壺があります。
つまり、壺が見てきた人たちの物語です。
と言っても壺目線のお話ではなく、
あくまでも壺はそこにあるだけなのですが。

登場人物の中で私が特に印象に残ったのは、老女たちのお話です。

一つは、戦前の裕福だった頃の思い出を語る女性のお話、
もう一つは、50年ぶりに同級生たちと京都で集まることになった老女のお話です。

思い出を語る女性は、キラキラした目でうっとりと忘れられない思い出を語ります。
その話に思わず引き込まれてしまいました。

一方、50年ぶりに同級生たちと会った女性は、
口には出さずとも心の中で思っていることが色々とあります。
基本的には文句が多めなのですが(笑)、素直なところもあって、
なんだかんだで気になるおばあちゃんなのでした。

***

『青い壺』は、約50年前のお話ですが、人間の本質は根本的には変わっていません。
だからこそ、この物語が令和の今、ブームになっているのかもしれません。

変わらないと言えば、今時の若者について、
言葉遣いがなっていないとか、ものを覚える気がない!などとボヤいているのには、
思わず笑ってしまいました。

その一方、時代は戦後ということもあり、
戦争が会話の中に当たり前のように出てくることも印象に残りました。

そんな登場人物たちの戦争に関する会話から、私は亡き祖父を思い出しました。

子供のころ、祖父は戦争の話をよくしていて、
おじいちゃんはいつも昔の話をしていると思っていたのですが、
祖父にしてみたら、昔の話では無かったのかもしれないと、
この本を読んで気付かされました。

***

さて、壺が出会う人たちは、本当に多岐にわたっています。
また、壺に対しての捉え方も違います。
これは素晴らしいものに違いないと思う人もいれば、3,000円で売る人もいます。
そんなモノの価値についての描写も興味深かったです。

読み終わった後、青い壺のその後のことを想像しながら、
青い壺は今もきっと誰かのそばにあるのかもしれないなあ。
いつか私のところにもやってこないかしら、なんてことを思ってしまいました。

『青い壺』だけに、私もすっかりツボにはまってしまったようです!(笑)

有吉さんの他の作品も読んでみたいな。

yukikotajima 11:07 am

『図解・気象学入門 改訂版 原理からわかる雲・雨・気温・風・天気図』 

2024年6月19日

昨日のニュースで「線状降水帯」という言葉を何度も耳にしました。
実際には発生しなかったようですが、
「線状降水帯」が発生している時、
雲のかたまりを気象衛星などの画像で見ると、
「にんじん」のような形をしているそうですよ。

また、今週は、遅れている梅雨入りの話題も多いですね。
そろそろ今週末あたりには梅雨入りするのでは、と言われていますが、
この梅雨、日本の西と東で性質が異なるそうなんです。

今日は、そんな気象に関する本をご紹介しましょう。

『図解・気象学入門 改訂版 原理からわかる雲・雨・気温・風・天気図』
古川武彦
大木勇人
講談社

この本は、2011年3月に出版された『図解・気象学入門』の改訂版です。
2011年は「線状降水帯」という言葉を耳にすることは無かったですよね。
改訂版は、そういった新しい気象用語を追加し、
さらにわかりやすくするための修正や補充を行った最新完全版だそうです。

「気象学」とは、気象への疑問を解き明かす学問のことで、
「天気予報」の技術の基礎だそうです。

ですから、気象学を学ぶことで、天気予報の理解が深まるというわけです。

そして、この本は、天気予報や気象学の専門家と
理科の教科書作りの専門家のお二人が、
話し合いを重ねて執筆をすすめられたそうで、
まさに教科書のような一冊となっています。

知識の紹介ではなく、
「しくみ」を「なるほど」と深く理解できるような解説を心がけられたそうで、
本のタイトルに「図解」とあるとおり、目で見てわかる内容になっています。

例えばどんなことが書かれているのか、いくつか紹介しますね。

空に浮かぶ雲は、どれくらいの重さかわかりますか。
なんと数十トンもあるんですって。
それなのに落ちてこないのはどうしてでしょう。

ちなみに、雲の寿命は短くて、せいぜい数十分だそうです。

それから、「大気の状態が不安定」という言葉を耳にしたことはありませんか。
それ、どういうことかわかりますか。

また、そろそろ25度を下回らない「熱帯夜」の日がやってきますが、
「熱帯夜」となるのはなぜでしょう。

一方、砂漠では、日中気温が高くても夜は急激に気温が下がりますよね。
その理由はわかりますか。

言葉は聞いたことがあっても、
なぜそうなるのか、その理由やしくみまでは知らないということが、
気象に関しては多いように思います。

この本では、その「しくみ」をわかりやすく解説していますので、
気象に関する気になる疑問が解決します。

大変勉強になった一冊でした。
中でも私が印象に残ったのは、天気予報に関することです。

天気予報と言うと、富山の皆さんの場合、
富山の天気だけを見ていると思いますが、
予報をする際は、富山だけを見ればいいわけではないようなのです。

と言うのも、地球の裏側の気象がたった数日で日本に影響してくるので、
数日後の予報を行うには、地球大気全体を扱わなくてはならないのですって。

地球全体ってすごい…。
これからは天気予報の見方も変わりそうです。

この先、梅雨をはじめ、夏の夕立、台風など、
天気に左右されることが多い季節になっていきます。
ぜひあなたもこの本で「気象」について学んでみてはいかがでしょう。

yukikotajima 11:35 am

『赤と青のガウン オックスフォード留学記』

2024年6月12日

今、日本のプリンセスの本が10万部のベストセラーになっているのをご存じですか。
それはこちら。

『赤と青のガウン オックスフォード留学記』
彬子女王(あきこじょおう)
PHP文庫

実はこの本が発売されたのは2015年です。
9年前の本がなぜ今話題になっているのかというと、
きっかけは、去年5月、X(旧Twitter)に
この本が面白いと投稿されたことだったそうです。

そして今年4月に文庫が発売され、今や大ブームになっているというわけです。

ちなみに、単行本が市場に出回っていなかったことから、
なんと彬子さまみずから出版社に連絡して、
文庫版として発売されることになったのだとか。
彬子さまの行動力すごい!

*

さて、この本は、「ヒゲの殿下」として親しまれた
三笠宮寛仁さまのご長女、彬子さまの英国留学記です。

彬子さまは、オックスフォード大学マートン・コレッジに
2001年9月から1年間と、2004年9月から5年間留学され、
女性皇族として初の博士号を取得されました。専攻は日本美術です。

本のタイトルの「赤と青のガウン」は、
オックスフォード大学の博士課程修了者だけが袖を通せるガウンのことです。

この本には、そのガウンに袖を通すまでの留学生活の日々が綴られています。

プリンセスの留学と聞くと、
一般の方とはだいぶ違うのだろうなあ、と思われるかもしれませんが、
この留学記を読むと、いい意味で裏切られます。

確かに一般の方とは異なるところもあります。

例えば、プリンセスを守る「側衛(そくえい)」と言われる方が常に側にいたり、
パスポートが一般の方とは異なっていたりします。
また、エリザベス女王にアフターヌーン・ティに招かれたお話などは、
プリンセスならではです。

ちなみに、留学中は側衛がいなかったため、
彬子さまは、オックスフォードで生まれて初めて一人で街を歩かれたのだとか。

そういったプリンセスらしい日常だけでなく、
この留学記では、格安航空で移動したり、自炊をしたりと
彬子さまの庶民的な一面も垣間見ることができます。

格安航空を使ったときには、日本のプリンセスだと思われず、
スムーズにチェックインができなかったのだとか。

他にも電車で爆睡してしまった失敗談などもあり、
読めば読むほど、親近感が湧いていきました。

個人的には、彬子さまが専攻されていた日本美術のエピソードが好きです。
彬子さまが日本の大学ではなく
オックスフォードで日本美術を学ばれた理由や
ボランティア・スタッフとして出入りしていた大英博物館の裏側など、
アートに関するお話がどれも面白く、また勉強にもなりました。
実際、彬子さまのお好きな分野ということもあり、
文章もよりイキイキとしていたように感じられました。

他にも、お父様をはじめとした周りの方々とのエピソードや、勉強の大変さなど、
いろいろな意味で興味深い一冊だったのですが、
この本の一番の魅力は、なんといっても文章の面白さです。
美しく品のある知的な文章でありながらも堅苦しくありません。
そしてとても読みやすいのです。

彬子さまの飾らない素直なお人柄がにじみ出た、とても素敵な留学記でした。

yukikotajima 11:40 am

『死んだ山田と教室』

2024年6月5日

あなたはどんな高校生でしたか。
高校時代を振り返ると、どんなことが思い出に残っていますか。

今日は、とある高校の男子高校生たちの物語をご紹介します。

そして今日は6月の一週目の水曜日ですので、明文堂書店とのコラボ回!
本を愛する高岡射水店 書籍担当 野口さんのオススメ本です。

『死んだ山田と教室』
金子玲介(かねこ・れいすけ)
講談社

こちらは、メフィスト賞の受賞作です。

メフィスト賞は、「究極のエンターテインメントを求む」という掛け声のもと始まった、
賞金ナシ、締切ナシ、下読みナシの公募新人賞で、
去年は、須藤古都離さんの『ゴリラ裁判の日』が、
2019年は、映画化もされた砥上裕將さんの『線は、僕を描く』が選ばれました。
過去には、乾くるみさん西尾維新さん辻村深月さんなどが受賞しています。

『ゴリラ裁判の日』は、田島も野口さんも、去年読んで良かった本の1冊に選びました。

◎詳しくは コチラ

そして今回受賞したのが、金子玲介さんの『死んだ山田と教室』です。

去年の受賞作の『ゴリラ裁判の日』がとても面白かったので、
今回の受賞作も楽しみにしていました。

『ゴリラ裁判の日』は、手話で人間と会話ができるゴリラのお話でしたが、
『死んだ山田と教室』は、事故で亡くなったあと、
教室のスピーカーに憑依してしまったらしい高校生のお話です。

え、憑依?もしや怖い話…?と思われそうですが、
そういうタイプの話ではありません。

というのも、基本的には男子高校生のバカバカしい会話が中心だからです。

舞台は、とある男子高校です。
夏休みが終わる直前、その高校に通う山田が交通事故にあって亡くなります。
山田は、誰にでも優しくて、面白くて、その上勉強までできるという
二年E組の人気者でした。

あるクラスメイトは、クラスの中心の山田がいなくなって、
明日からどうやって過ごせばいいかわからないと言います。
山田いないの無理なんだけど…と。

山田亡きあと、二年E組はずっとお通夜が続いているような雰囲気です。

そこで、担任がみんなを元気づけようと席替えを提案します。

すると、教室のスピーカーから、山田の声が聞こえてきたのです。
でも、姿はどこにもありません。
どうやら山田はスピーカーに憑依してしまったようなのです。

クラスメイト達は最初は戸惑っていたものの、すぐに声だけの山田を受け入れて、
生きていたころと同じように、山田とくだらない話をするようになります。

物語は、この山田とクラスメイトたちとの会話を中心に進んでいくのですが、
このやりとりに何度笑わせられたことか。
くだらなくて、自由で、そして品が無くて。(笑)

でも…山田はもう亡くなっているのです。

そもそもなぜ山田は声だけ復活したのか。
また、いつまでこんな状況が続くのか。
高校生たちのバカバカしさに笑いながらも、いろんなことが気になって、
本のページをめくる手が止まりませんでした。

果たして、この先彼らはどうなっていくのか。
続きは、本を読んでお確かめください。

では、ここで、この本を大プッシュしている
明文堂書店 高岡射水店 書籍担当 野口さんのコメントをご紹介します。

「男子校って、こんな感じなのでしょうか(笑)
2年E組の生徒になった気分で、楽しみました!
是非!ファイア山田のオールナイトニッポンをお聴きください♪」


私も野口さん同様、クラスメイトの一人の気分でした。(笑)

最後の一文について少し解説すると、
山田は、土曜の夜に誰もいない教室で
「ファイア山田」として、ラジオのマネをして一人で喋っているのです。

そういう意味では、いつもラジオを聞いているリスナーの皆さんにも
読みやすい一冊だと思います。
いや、読むとういうより、まさにラジオを聞いている感覚で楽しめます。

あなたも男子高校生の気分で青春時代を体感してみませんか。
いろんな感情が味わえますよ。

*

それから本とあわせて、『死んだ山田と教室』の特設サイトもぜひご覧ください。

あらすじコミックや、まるで実写映画の予告編のようなスペシャルムービーもあります。

このムービーがとても良くて、この配役の映画も見てみたくなりました。

◎特設サイトは コチラ

*

そして!

今日ご紹介した『死んだ山田と教室』は、
富山県内の明文堂書店全店「ヨリミチトソラ ゆきれぽコーナー」にありますので、
ぜひお手に取ってみてくださいね。

◎明文堂書店のサイトは コチラ

yukikotajima 11:08 am

『学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話』

2024年5月29日

私は本屋さんの中をぶらぶら歩くのが好きです。
なんとなく目に入った本との出会いが楽しいので。

本屋さんでは、新刊本、話題の本などのチェックをして、
雑誌コーナー、文庫もまわって、
あとは、アートコーナーにもよく行きます。

私は美術館に行くのも
アート関連の本を読むのも好きなので、
アートコーナーは欠かせません。

先日も明文堂書店 高岡射水店に行った時、
アートコーナーで何か面白そうな本は無いかなあ
と本棚を眺めていたところ、気になる本を発見しました。

『学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話』
ちいさな美術館の学芸員
産業編集センター

本の帯には「知れば美術館が10倍面白い!」とあり、
美術館によく行く私は、早速手に取りました。

画家の紹介や絵画の見方を紹介する本は多いですが、
学芸員の仕事や、美術館の舞台裏について知ることのできる本
はなかなかないので、面白そうだなあと思って読んでみることにしました。

著者は「ちいさな美術館の学芸員」とあります。
どうやら都内のとある美術館で働く現役の学芸員さんのようです。

そして、この学芸員さんによるnoteの人気連載を書籍化したのが
この本だそうです。
(※noteは、誰でも情報発信できるWEBサービス)

名前を伏せている分、本音が満載で、
まるで馴染みの学芸員さんとカフェでコーヒーを飲みながら、
こっそり「ここだけの話」を聞いているような気分でした。

ちなみに、学芸員は「美術館の端っこに座っている人」ではありません。
その方は、監視のスタッフです。
これ、よく間違われるそうですよ。

学芸員の仕事は、博物館法によると、
「博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究」をする専門職です。
でも実際は美術館に関することなら何でもやっている方が多いようです。

あと、法律上、美術館と博物館に区別はないのだとか。
また、動物園や水族館も法律上はすべて「博物館」なんですって。

へー。

私はこの本を読みながら何度もこの「へー」を口にしていました。
いつぞやの「へーボタン」があれば推し続けていたと思います。(笑)

*

さて、この本は、4つの章に分かれています。

・一つの展覧会ができるまで
・学芸員という仕事の舞台裏
・美術館をもっと楽しむためのヒント
・美術館をささえる仲間たち

まずは、展覧会がどのように作られているのかから始まります。

富山の美術館でも様々な展覧会が行われていますよね。
私も企画展ごとに各美術館を訪れていますので、
展覧会の舞台裏のお話はとても面白かったです。

例えば、企画展では他の美術館の作品が展示されることもありますが、
美術館同士の作品の貸し借りには、基本的にお金が発生しないのだとか。
(中には例外もあるようですが)
これにはびっくり!
私は、レンタル料も大きな収入の一つかと思っていました。

また、作品を展示する際、最後の仕上げとして大事なのがこれだそうです。
「ライティング」。照明の当て方です。

確かに、どの美術館も照明には力を入れていますよね。
もう展覧会は終わっていますが、
この春、秋水美術館で開催されていた『源氏物語と王朝の美』では、
当時は、屏風をろうそくの明かりで見ていたことから、
赤みを帯びた暗めの照明にして、当時の明かりを再現していまして、
そのこだわりに感動しました。

この本を読んで、今後は作品だけでなく、
ライティングにも注意して鑑賞していきたいと
あらためて思いました。

*

第3章の「美術館をもっと楽しむためのヒント」では、
アートは「無駄」で「役に立たない」かもしれない…と書かれていました。
たしかに今は何かと無駄を嫌いがちな時代ですからね。

でも、著者は、その「無駄」こそ、人間らしく生きるには欠かせないと言います。

おっしゃるとおり!
アートだけでなく、それこそラジオだって、
無くても困らない存在かもしれません。

でも、無駄の良さというのもあるものです。

詳しくは、この第3章を読んで頂きたいのですが、
本当は朗読してラジオでお伝えしたいくらいに共感しました。

と言いつつも、私にとって美術鑑賞は楽しい時間なので、
全く無駄ではないんですけどね!(笑)

*

ということで、いくつか抜粋してご紹介しました。
本屋さんで偶然出会った本でしたが、とても面白かったです。

本音満載の話し言葉で、楽しく気軽に読めましたし、
何より次、美術館に行くのがさらに楽しみになりました。

さっそく近々、富山県美術館のエッシャー展に行く予定なので、
この本に書かれていたヒントを参考に楽しんできます♪

アート好きな方はもちろん、
アートは難しくてよくわからないという方もぜひ、
この本を読んでみてください。

きっと美術館がより身近に感じられると思いますよー。

yukikotajima 12:24 pm

『家族解散まで千キロメートル』

2024年5月22日

私が担当している番組には、家族について書かれたメッセージがよく届きます。

お子さんの可愛いエピソードに誕生日のお祝いメッセージ、
時には夫や妻に対する愚痴などもありますが、
どのメッセージからも家族を大事に思っていることは伝わってきます。

そんな大切な家族に、あなたは嘘をついたことはありますか?

今日ご紹介するのは、「わが家は嘘で出来ている」という、ある家族の物語です。

『家族解散まで千キロメートル』
浅倉秋成(あさくら・あきなり)
株式会社KADOKAWA

今注目のミステリ作家、浅倉秋成さんの新作です。

浅倉さんと言えば、2021年に刊行した
『六人の嘘つきな大学生』が話題となりましたが、
なんと、今年の11月に映画化されるそうですよ。
おめでとうございます〜!

◎映画の公式サイトは コチラ

そして私、この本をまだ読んでいなかったことに気づき、
まずはこちらから読んでみました。

『六人の嘘つきな大学生』は、
とある企業の最終選考に残った六人の就活生たちの物語です。
最初は仲良く交流を深めていたものの、
内定者はこの中から一人だけとわかるや否や全員がライバルに。
そんな中、彼らが隠していた嘘が明らかになり…
という、ドキドキ感がたまらない大変面白い一冊でした。

私は映画の配役を知ったうえで読んだので、
もうすっかり映画を見た気になっています。(笑)
もちろん実際の映画も楽しみですが。
ちなみに配役はピッタリです。

*

さて、就活生の嘘の次は、家族の嘘です。
続けて『家族解散まで千キロメートル』を読みました。

こちらもとーっても面白かったです。
『六人の嘘つきな大学生』とはまた別のスリリングな展開で、
ノンストップで最後まで読んでしまいました。

2冊とも騙されまい!と思って意気込んだものの、見事に二度読み。。。
ま、本に騙されるのは嫌いじゃないんですけどねー。(と強がってみた。笑)

さて、『家族解散まで千キロメートル』は、ある家族、喜佐家(きさけ)のお話です。

喜佐家では、古びた実家を取り壊して、
両親はマンションへ転居、姉は結婚、そして弟は独立することになります。

そして、引っ越しの3日前、家族で片づけをしていたところ、
倉庫で見慣れない大きな箱を見つけます。
中を開けてみれば、出てきたのは仏像でした。

何これ?と思った直後、
テレビのニュースで「青森の神社でご神体が盗まれた」とあり、
あらためて仏像を見れば、そのご神体にそっくり。。。

宮司が「今日中に返してくれるなら罪には問わない」と言っていたことから、
家族は、彼らの住む山梨から神社のある青森まで
車でご神体を返しに行くことにします。

ちなみに、家族と言っても、そこに父はいません。
生きてはいるものの、いつもふらふらどこかに出かけてしまうのです。
また何かと問題も多いため、
家族は、このご神体を盗んだのは父に違いないと思ったわけです。

到着予想時刻はギリギリです。果たして間に合うのか。
そもそも、なぜこんなことになっているのか。

ここから怒涛の家族ドライブが始まります。

この先は、ぜひ皆さんも喜佐家と共に
車に乗っている気分で本を読んでみてください。

*

私も喜佐家のドライブにお供しましたが、
いやあ、いろいろな意味で驚かされました。
でも、ただびっくりして終わりではなく、
考えさせられることも多かったです。

物語が面白いから読むスピードもどんどん上がってしまうのだけど、
そのまま一瞬で景色が流れ去っていくのではなく、
登場人物の発した言葉に、思わず立ち止まって一緒に考えてしまうような、
そんな瞬間が何度もありました。

ネタバレになってしまうので、
具体的にここが良かった!という話ができないのが
なんとももどかしい。うううー。

ミステリとしても家族小説としても大変面白い一冊でした。
この作品もいずれ映画化されそうだなー。

*

『家族解散まで千キロメートル』の特設サイトでは、
95ページまで試し読みができますので、
まずはこちらからチェックしてみるのもいいかも。
でも、途中まで読んだら間違いなく続きが気になると思いますが。(笑)

◎特設サイトは コチラ

それでは、あなたも喜佐家のドライブにいってらっしゃ〜い♪

yukikotajima 11:37 am

『不機嫌な姫とブルックナー団』

2024年5月15日

あなたはクラシック音楽はお好きですか。
好きな作曲家はいますか?

私は詳しくはないのですが、
ピアニストの清塚信也さんが監修、MCを務める
NHK Eテレの「クラシックTV」は好きで毎週見ています。

先日の放送ではマーラーが特集されていまして、
思わずこの本が頭に浮かびました。

『不機嫌な姫とブルックナー団』
高原英理(たかはら・えいり)
講談社文庫

この本にもマーラーが出てくるのです。
でも、メインで取り上げられているのは、
本のタイトルにもある「ブルックナー」ですが。

あなたは、ブルックナーをご存じですか?

ベートーヴェンやモーツァルトなどと比べると知名度は低めかもしれませんが、
ブルックナーは、19世紀のウィーンを代表する作曲家で、
今年は、生誕200年の「ブルックナーイヤー」なのです。

この本は、2016年に発売され、今年4月に文庫化されたのですが、
今年はブルックナーイヤーということもあり、よく売れているそうですよ。

*

タイトルの『不機嫌な姫とブルックナー団』を見ると、
いつの時代のお話だろう?と思ってしまいそうですが、現代の物語です。

主人公は、図書館で働く女性「ゆたき」です。
ある日、彼女は一人で大好きなブルックナーのコンサートに行き、帰ろうとしたところ、
「ブルックナー団」を名乗る3人の男性から声をかけられます。

このあと、ブルックナーについて話をしないかと。

彼らは「ブルックナーオタク」、通称「ブルオタ」なのでした。

ちなみにブルオタには男性が多いため、
女性のファンの話も聞いてみたいと、ゆたきは声をかけられたのでした。

ブルックナーは、偉大な作曲家でありながらも、なかなか世に認められず、
また、ひどく変わった、今で言うところの「イタい」人だったそうです。

気が小さくて自信が無く、常に迷い、
他人からの助言をすぐ信じて楽譜を書き換えていたため、
彼の交響曲にはいくつもの改訂版があります。

また、女性に全くモテなかったそうで、
ゆたきによると、ブルックナーは「非モテの元祖」だそうです。

実際、同時代の輝かしい作曲家たち、例えば、
リスト、ショパン、ヴァーグナー、ブラームス、シューマンなどと比べると、
ブルックナーは「ださい」のだとか。

そして、ブルオタたちは、自分たちのようなキモオタは、
輝かしい作曲家たちの世界からは締め出されているから、
自分たちには野暮なブルックナーがお似合いだと言います。

だからこそブルオタたちは、女性のファンであるゆたきに、
ブルックナーのどこか好きなのか聞いてみたいと思ったのでした。

結局、彼女は「ブルックナー団」のブルオタたちと
ブルックナー愛を語ることになるのですが、
どんなトークが繰り広げられるかは、ぜひ本を読んでお楽しみください。

さて、そんな中、ゆたきは、ブルックナー団のメンバーの一人が書いたという小説
「ブルックナー伝(未完)」をすすめられます。

『不機嫌な姫とブルックナー団』には、
その、ブルックナーが主人公の小説も載っていますので、
読者である私たちも読むことができます。

いったいそれはどんな小説なのか。
続きはご自身でお確かめください。

*

この本は、一冊丸ごとブルックナー愛にあふれていました。
何かを好きな人たちの話っていいものですね!

ブルックナーのここは残念だよね、と言いつつも、
根底には愛があるので、ただの悪口にいなっていないのがいいのです。

ブルックナーがお好きな方は間違いなく楽しめると思いますし、
今「推し」がいる人は、推しへの愛や向き合い方にきっと共感できるはずです。

一方、ブルックナーはじめ、クラシック音楽はよくわらかない、
という方でももちろん大丈夫です。

私も詳しくないですが、楽しく読めましたし、色々と勉強にもなりました。

何より文庫ですし、皆さんも気軽に読んでみてくださいね!

それから、作品の中の「ブルックナー伝(未完)」の完全なブルックナー伝が、
今年、『ブルックナー譚』として、中央公論新社から刊行されたそうですので、
良かったらあわせてお読みになってみるのもいいかも。

yukikotajima 12:46 pm

『休むヒント。』

2024年5月8日

GWが終わりました。
どんな連休でしたか。

旅行に行った方、
近場をドライブした方、
家の掃除や片づけをした方、
友人と食事を楽しんだ方、
また、お家でダラダラしていた方もいるでしょうか。

どんなお休みだったにせよ、しっかり休めましたか。

リフレッシュできる休みの過ごし方は、
人によって異なるものです。

アクティブに動きたい方もいれば、
家でのんびり過ごしたい方もいますよね。
また、その時の気分次第でも過ごし方は変わるものです。

その一方で、なかなか上手に休めないという方もいるのでは?

お休みなのに、つい仕事をしてしまったり、
ムリして予定を詰め込んでしまったり、
逆に何もしないまま一日が終わってしまったり。

心当たり、ありませんか。

私は、もちろんあります!(笑)

***

今日は、いろいろな人たちの「休みの日」がのぞける一冊をご紹介します。

『休むヒント。』
編:群像編集部
講談社

タイトルだけを見ると、
上手に休むためのヒントが載っているの?
と思ってしまいそうですが、
この本は、講談社の文芸誌『群像』に掲載された
「休み」にまつわるエッセイを収録したアンソロジーです。

執筆者は33人。
作家の角田光代さん、
声優の斉藤壮馬さん、
星占いでおなじみの石井ゆかりさん、
お笑いカルテット・ぼる塾の酒寄希望さんなど、
幅広い顔ぶれです。

「休み方」も「休みの捉え方」も33通りあります。

具体的な休みの日の過ごし方を綴る方もいれば、
ケガや病気でやむを得ず休むことになってしまった方や、
「休み」について、とことん考えている人もいます。

どのエッセイもそれぞれに面白かったのですが、
中でも私が素敵な休み方!と思ったのは、小西康陽さんです。

自称休むのが下手という方が多い中、
小西さんは、そんな言い訳もなく、
最初から、あるお休みの日を綴っています。

時間に追われることなく、
その時の気分と状況に合わせて動いていく小西さんの穏やかな休日は、
私まで同じような休日を過ごしている気分になれました。

ちなみに、最近の小西さんは、
「目的もなく路線バスに乗って終点まで行く」ことを楽しんでいるそうで、
私も今度真似してみようと思いました。
でも、東京なら帰る手段は多そうだけど、
富山は場所によっては帰れなくなりそうなのですが。(笑)

そのほか、フリーライターの武田砂鉄さん、
作家・詩人・作詞家の高橋久美子さん、
Z世代ライターの竹田ダニエルさん、
イラストレーターの益田ミリさん、
作家の吉田篤弘さんのエッセイも印象に残りました。

このエッセイには、33通りの「休み方」がありますので、
共感もあれば、気付き、それこそ「休むヒント」も得られると思います。

私は、この本を読み終えたあとは、
いい休日を過ごせたときのような満足感がありました。
程よく身体の力が抜けて、頭の中がスッキリした感じで。

あなたも次のお休みの日にでも読んでみては。

yukikotajima 11:20 am