6月21日 gra書
2011年6月21日
先週から、本格的に、書道の作品を1つ1つじっくりと取り上げています。
先週は、楷書の中でも初めの段階に当たる「孔子廟堂碑(こうしびょうどうひ)」をご紹介しました。決して無理な力は入れず、ごく自然に文字が書かれている作品でした。今日は、孔子廟堂碑とは対照的な存在ともいえる「九成宮醴泉銘(きゅうせいきゅうれいせんめい)」をじっくり見ていきましょう。
最初に基礎データです。「九成宮醴泉銘」は唐の書家、歐陽詢(おうようじゅん)が書いたものです。当時の太宗皇帝が避暑地としていた九成宮で、醴泉・甘い味がする水がわき出たということで、これを記念して建てられた石碑の文章です。この九成宮醴泉銘は、今の中国内陸部、陝西省(せんせいしょう)に現在もあります。中身はといいますと、太宗皇帝は、長い間政治を行っていたために、精神的な疲れが出て病気になったそうです。針やお灸に行っても治らなかったため、九成宮で静養していました。そんなある日、九成宮で土の湿り気を感じた皇帝が杖をついたところ、水がわき出たということです。昔の書物に、わき水を飲めば長患いが治ったと書かれていたので、この水を飲んで太宗皇帝も長生きされることを切に望みます。」という内容が書かれています。文字は、形も線もムダのない非常に整ったもので、楷書の勉強をするうえで必ず練習するものの1つです。
では実際に見てみましょう。まず文字の作りですが、全体的にやや縦長に文字が書かれています。正方形よりも気持ち縦の線が長い四角形の中に納まりそうで、「ザ・お手本」とも言えますね。そして、文字がやや緊張感を持ったような、縦の線が引き締まった印象を受けます。たとえば、「遠」遠いという文字を見ますと、ほぼ直線で文字が形成されています。特に最後のはらいの部分、ほかの作品と比べると、九成宮醴泉銘では、右斜め下へほぼまっすぐに線が書かれ、最後は右へ払うのではなく、同じ方向のまま最後がはらわれています。こうすることで、はらいも直線的に見えます。
九成宮醴泉銘を臨書したものと、活字体のものを比較してみました。
それから、漢数字の「四」を見てみます。この文字の縦の線を見ると、やや内側にそるような感じで書かれているのがわかります。さらに、曲がり角の部分は線が太く、そこから下に線が進むにつれて細くなっています。逆三角形を描いているような感じですね。これも、縦の線が引き締まって見える要素と言えるかと思います。このような形を背中の背に勢いと書いて「背勢(はいせい)」と呼ばれています。その逆として、先週紹介した孔子廟堂碑の文字、この文字の形を、どこどこへ向かうという文字に勢いと書いて「向勢(こうせい)」と呼んでいます。向勢は、縦の2本の文字が、お互いに外へ膨らむように向き合っている状態を指します。
そしてもう1つ、「はね」の部分。九成宮醴泉銘のはねは、短めです。線からちょこっと突き出した程度です。この場合のはねは、しっかりはねるのではなく、筆先をそろえるような感じで、ちょっぴりはねるといった感じです。こうすることによって、文字の中の空間を広く見せる効果も出しています。
実際に臨書、まねて書いてみると、右上がりの強い文字で、横の線よりも縦の線がやや太くなっています。ですが、全体として、線の太さの差がほとんど見られないので、線の太さの加減に注意が必要です。そして、先ほどもお話しましたが、やや縦長の四角形の中に納まるように全体のバランスを考えて文字を書くことも大切な要素となります。