6月14日 gra書
2011年6月14日
先月までは、書道の基本についてご紹介してきました。今週からは、いよいよ本格的に、書道の作品と向き合いたいと思います。
まず、以前もお話ししました、文字には、楷書、行書、草書、隷書、篆書と大きく5種類に分けられます。で、書道を幅広く勉強するにあたって、文字の形や書き方を身につけることがまず重要な要素となります。そこで、皆さんにも見てわかる楷書から順番にやっていきます。
今日は、楷書の中でも比較的最初の段階で目にすることの多い、「孔子廟堂碑」について。
最初に基礎データです。これは、以前番組の中でもご紹介しました、虞世南(ぐせいなん)が書いたものです。これは、今でいう中国の国立大学の中に、孔子廟(こうしびょう)という、孔子を祀る建物が建てられたのを記念して造られた石碑です。ですが、石碑自体は、完成して間もなく火事で壊れてしまいました。これを、のちに、唐の則天武后(そくてんぶこう)の時代に修復しましたが、現在は存在していません。ですので、現在私たちが本などで目にできるのは、もっと後の時代に見つかった拓本、石碑の文字を写し取ったものです。しかし、これも、文字の数が合っていないなど、100%完全なものではないとされています。
次に、文字を見てみます。
文字を構成している線は、ごく自然な書き方がされています。決して無理な力は入れず、常に一定のペースで淡々と書かれています。1文字1文字書いていくと、特別注意しなくてはいけないようなところがないように感じます。が、細かいところに気を配らなくてはいけない作品なんです。
まず、文字の重心です。文字を書くときは、真ん中に重心をとるように書かれているものが大半ですが、この孔子廟堂碑は、文字の真ん中からやや左に重心がとられています。どういうことかといいますと、たとえば天気の「天」という文字がありますね。普通に書くと、右はらいと左はらいは、線の長さがだいたい同じになります。ですが、孔子廟堂碑は、左はらいを少し短く書いて、その分右はらいを長く書いています。こうやって字のバランスを取っています。
左が孔子廟堂碑を臨書したもの、右が、活字の教科書体の文字です。
そして、文字の空間の作り方です。「明るい」という文字があります。普通に書くと、左側の「日」に「月」がくっつくように書きますが、孔子廟堂碑を見ると、日と月の間がスカッと空いていて、縦線が1本書けるくらいの余裕を持たせています。
左は臨孔子廟堂碑、右は教科書体の「明」です。
あと、偏とつくりのバランスが、活字とは違ったものもあります。哲学の「哲」という字は、活字で見ると、「折る」という文字の下に口が書かれていますが、ここでは、折るの手へんが大きく書かれていて、右側に「斤(キン)」、そしてその下に「口」が書かれています。
左 臨孔子廟堂碑 右 教科書体の活字
孔子廟堂碑は、全体的にゆとりがある書き方がされているので、こんな感じかな、というイメージではなく、よーく字を見て書かないと、本物の良さがなかなかつかめない作品です。