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・殺し屋たちの話。とはいっても殺伐とはせず、どこかユーモラスであるのが伊坂さんの特徴。
やりとりも軽妙・珍妙です。
・殺し屋たち、と聞いて『グラスホッパー』を思い浮かべた方は、正しい発想です。
似たようなテイストで書かれているし、『グラスホッパー』に出てきたあの人もちょっぴり登場。
また裏世界の力関係も『グラスホッパー』の事件後、となっているので、
読んでいる方が今作を楽しめるでしょう(もちろん読んで無くても分かるようにはなっています)。
・そして舞台は今回なんと、新幹線。東京から盛岡へ向かう新幹線の中で、様々な思惑を持つ殺し屋たちが入り混じります。
ある人物と荷物を送り届けるために乗り込んだ者、また逆にある荷物を奪って逃げるために乗り込んだ者。
はたまた、ある人物に罰を与えようとしたところ返り討ちになり、同行させられているもの…。
それぞれの事情が絡まりあい、妙な反応を起こして物語は進み、また電車も進んでいきます。
物事がクロスする話を書かせるとやはり伊坂さんはうまい。
・新幹線という閉鎖された空間で、彼らは時に協力し、時に戦います。ストーリー展開は全く先が読めませんでした。
終点に待ち受けるものが何か、最後の最後まで気が抜けません。
・伊坂さんは『グラスホッパー』がとてもお気に入りだったらしく、だからこの作品も生まれたのでしょう。
担当との打ち合わせでは執筆の進行状況を「今○○駅の辺りです」なんて言ったりしていたのだとか。
◆今年のミステリランキングは??
・混戦が予想されます。この伊坂さんの作品は上の方に絡んでくるかもしれません。
あとは貴志祐介『悪の教典』(文藝春秋、上下巻)あたりも上位候補。
学校を舞台に繰り広げられる殺人。サイコ・ホラーのテイストです。
分厚い物語ですがページをめくるのが止まらないような引力がある。
犯人の思考が徐々に垣間見えるのがその原因か、じわじわ、ぞくり、ときます。
他にも色々と有力候補はありますが、全て挙げるときりが無いので若手をピックアップ。
若手では梓崎優(しざきゆう)『叫びと祈り』(東京創元社)の評判が高い。
デビュー作にして完成度の高い連作短編。
青年が世界をめぐった先で遭遇する事件や謎、ロードノベルのような趣きもよい。
特に冒頭の「砂漠を走る船の道」が秀逸。何も無い砂漠とで起きた連続殺人事件。
犯行の動機付けが砂漠のキャラバンならではで、またミステリとしての技巧も光る作品。
そして連作短編といえば何より七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』(東京創元社)。
個人的には今年度一番の出来と思っていますし、ぜひランクインしてほしい作品です。
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