『デルタの羊』
2020年11月25日
「アニメ」というと、どんな印象がありますか?
今年はなんといっても鬼滅の刃が大人気で、
熱狂的なファンも大勢いますよね。
日本のアニメは、子どもから大人までを夢中にし、
今や日本だけにとどまらず海外でも人気がありますが、
いったいどのように作られているのか、ご存じですか?
今日ご紹介するのは、今の日本のアニメのリアルを描いた小説です。
『デルタの羊/塩田武士(KADOKAWA)』
塩田さんというと、現在公開中の映画『罪の声』でおなじみです。
また、大泉洋さんを主人公にあてがきした『騙し絵の牙』も来年公開予定です。
◎『騙し絵の牙』の田島の感想は コチラ
もと新聞記者の塩田さんは、
どの作品も徹底的に調べてから書いているのだそうです。
だから塩田さんの作品からはリアルな現場の空気が感じられます。
今回も「日本のアニメ」の現状がよくわかりました。
物語は、アニメ製作プロデューサーの男性が、
SF小説のテレビアニメ化に着手するところから始まります。
しかし業界の抱える課題が次々と浮き彫りとなっていきます。
製作委員会、制作会社、ゲーム、配信、中国、テクノロジー、コロナ後…。
なんと早くもコロナ後のことまで描かれています。
アニメ業界には2つの「セイサク」があるそうです。
実際にアニメーションをつくる「制作」と
アニメをビジネスとして成立させる「製作」です。
これら2つの「セイサク」の現場が丁寧に描かれていますので、
私のようにアニメに詳しくない人でも楽しめます。
私はこの本を読んでアニメの見方というか、見え方が変わりました。
これまではストーリーや絵が好きかどうかで見ていたけれど、
キャラクター達の動き、表情など細かいところまで見てみたくなりました。
動きや表情が自然に見えることは、実はすごいことなのですよね。
この本を読みながら私が新人の頃のことを思い出しました。
ニュースの練習をしている時に、先輩の牧内アナから
「上手な人のニュースは、ニュースの内容が自然に頭に入ってくる」
と教わったことを。
上手な人は自然に聞かせられる人のことで、
あえて「うまいなあ」とは思わせない。
でも、下手な人は、すぐにわかるのものだと。
この本の中の、あるベテランアニメーターの言葉も印象に残りました。
ものづくりに携わるものは、本能的に高みを目指すけれども
必ずどこかで線を引かなければならない。
そこから先は「つくり手のエゴ」になる。
まさにプロの言葉だと思いました。
また、このベテランアニメーターは
「表現方法は時代と添い寝する」と言い、
手書きからデジタル作画、そしてCGへと
時代に合わせて描き方を変えているのです。
若手ですら手書きじゃなきゃ嫌だという人がいるのに。
この物語は、アニメの現場を通して
ものづくりとは何か?についても学ぶことができ、
そういう意味でも楽しめました。
でも、私が一番伝えたいのは、
「小説として大変面白かった」ということです。
アニメの世界を描いているとはいえ、この作品は小説です。
そして、文字だけだからこその面白さがありました。
え?そういうことだったの?
と何度驚いたことか。
あなたは読みながら、塩田さんの仕掛けに気付けるかしら?
ふっふっふ。
この本のすごいところは、
最初にページをめくって読み始めたときから
何度も物語の印象が変化していくことです。
ですから、最後まで読んだ人は、きっとまた最初から読みたくなるはず。
大変面白い一冊でした!
正直なことを申しますと、
以前、紀伊國屋書店富山店に行った時に、
小説にお詳しい書店員さんから
今一押しとしてこの本を薦められたのですが、
本の帯の「アニメ」という言葉を見て
「私、アニメのこと詳しくないんですよね…もう少し様子を見ます」
と一度断ってしまったのです。
でも、先日お邪魔した時にも再度薦められまして、
そんなにおっしゃるならと読んでみたわけです。
そしたら大変面白くて、これは確かに薦めたくなる!と納得。
ですから私と同じように「アニメに詳しくない…」という方もぜひ〜。
そして、この本を読んだ方はきっと思うはず。
いつかアニメ化してくれないかなあと。
小説としての面白さはもちろんあったけれど、
アニメ版も見てみたいと思わずにはいられないのですよ、これが。
アニメの現場にいる皆さん、ぜひご検討ください。(笑)