7『夜は短し歩けよ乙女』
2009年3月11日
ここ数年ずっと話題になっている
森見登美彦(もりみとみひこ)さんの
『夜は短し歩けよ乙女』をやっと読みました。
2007年に本屋大賞2位を受賞した、本好きが好きな本です。
最近、文庫化されたのを機に読んでみました。
舞台は京都。
京都のある大学に通う私(主人公の男子)は、
「黒髪の乙女」にひそかに思いをよせ、
偶然を装い、いつも彼女の近くをウロウロする日々。
一方、黒髪の乙女は、そんな男の先輩の必然的すぎる偶然には、
まったく疑いをもつことなく「よく会うなぁ」と思う程度。
そんな2人の主人公が入れ替わりながら、話が進んでいきます。
先輩目線のときは、会話は全て「である調」、
黒髪の乙女目線のときは「ですます調」です。
主人公の2人は若者で、今の時代の話(たぶん・・・)なのですが、
文章が、まるで過去の名作を読んでいるかのような独特な表現なのです。
例えば「作家さん」というよりも「文豪」と呼びたくなるような。
淡いベージュの紙の上の黒い文字だけをおっているはずなのに、
頭に浮かぶは、色鮮やかな世界。
そして、言葉たちが音を奏でるがごとく、
また時には、踊るように自由自在に飛んでいくのです。
集中しながら読まないと、文字がそのまま紙から離れてしまいそうな程。
ひょいっと手を伸ばし、文字をつかまえながら読んでいる気分でした。
ストーリーはというと、
個性的というか、クセのある人たちが次から次へと登場し、
不思議な出来事が次々に起きていきます。
空回りばかりの先輩をよそに、どんなときでも一定のテンポで歩く乙女。
天然系でマイペース。でも人に優しく、いつでも穏やか。
私だったら絶対に許せないであろう、あんなことをされても、
広い心で許してしまう君(きみ)。
ただの天然女子は、同性から嫌われやすいですが、
この乙女は、あまりにもマイペースすぎて、
しかも誰にも媚びず、感謝の気持ちを忘れない子なので、
悔しいことに嫌いになれない(笑)。
2人の間に起こる出来事は同じでも、
2人の感じ方、見え方はまったく別物で、
あることがらを客観的に2人の視点から理解できるので、
しっかりと心に残ります。
どこまでも不器用で間が悪い先輩は、
全ての行動が裏目に出てしまうのだけど、めげないんですね〜(笑)。
その強さをもっと別のものに使えないものか、と思いながらも、
そんな不器用さがひとごととも思えず、
彼の行く末をおせっかいにも見守りたくなってしまい、
結局、最後までするすると読んでしまいました。
春は出会いの季節。
本の中にも出会いはあります。
ぜひ、本の門をくぐってみてください。