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つみびと

2019年7月24日

今日の予想最高気温は33度です。
今日も暑くなりそうですが、9年前の暑い夏に
ある若い母親が幼い子ども二人をマンションに置き去りにした
という事件が起きました。

真夏の灼熱地獄の中、冷房も食べ物も無い部屋で幼い子どもが亡くなり、
母親はその間、何をしていたのかというと、遊びほうけていました。

この事件、かなりショッキングな内容でしたので、
覚えている方も多いのではないでしょうか。

この事件を知った時、あなたは何を思ったでしょうか。

***

今日ご紹介する本は、この事件に着想を得て創作したという
山田詠美さんの話題作『つみびと(中央公論新社)』です。

山田さんは、出版社のサイトの中で

「日頃から、事件報道に接するたびに、
 ここにある罪とは、いったいどんなふうに形造られて来たのだろう
 と
考えてみるのが癖になっている」

とおっしゃっています。

この作品は、実際の出来事がベースになっていますが、あくまでもフィクションです。
でも、とてもリアルな作品でした。

物語は、亡くなった子どもたちの母の母の話から始まります。
娘が逮捕され取材攻撃にあう母の様子から。

何も知らない私は、このお母さんのことを大変そうだと思ってしまいました。

でも、読み進めていくうちに、その感情は変化していきます。
というのも、この母も娘を捨てているからです。

子どもたちを置き去りにしたのが「蓮音」で、
その蓮音を捨てた母親が「琴音」です。
つまり、子どもを置き去りにした蓮音も母親に捨てられているのです。

物語は、この二人と亡くなった子ども「桃太」の3人の視点で進んでいきます。

事件を起こした蓮音が酷い人なのは間違いありません。
でも、彼女の人生を知れば知るほど、彼女がかわいそうに思えてきます。
幼い頃、母が家を出て行ってしまってから
妹たちの面倒を見る羽目になった蓮音の毎日は壮絶なものでした。

そんな中でも初めての恋をし、子どもが出来て結婚します。
ところが幸せな時間は長くは続きませんでした。
離婚をした彼女は、誰にも頼らず…というか頼れず、
子どもたちを育てるために家と仕事を探すことになります。
そして…。

蓮音の子どもの頃を知ると、
最初に母親の琴音に感じた大変そうだという感情は消え去り、
琴音はなんてひどい母親んなんだ!と全く逆の感情が湧いてきます。

ところが、この琴音にも辛い過去があったのです。
それが原因で精神的に病んでしまいます。

この辛すぎる連鎖を誰かとめて!と思わずにはいられませんでした。

でも、男性たちは頼りになるどころか、腹立たしい人ばかりです。
暴力をふるったり、都合の悪いことから逃げたり。

あまりにもしんどくて本を読みながら泣けてきました。

子どもたちを置き去りにしてしまった蓮音が悪いのは間違いありません。
でも、彼女だけが悪いのかといったら、そうじゃない。

そして、気付いたのです。
私だって何様だよと。

何も知らずに「蓮音は最低な人だ!」と思っていた私は、
なんて短絡的なのかと自分が嫌になりました。

でも、世の中の多くの方が私と同じ思考なのではないでしょうか。

事件の背景なんて知らないくせに
SNSで好き勝手言う人のなんと多いことか。

この本を読み始めてすぐに
「なんか疲れる本を選んでしまったな…」
と正直、後悔しました。
でも、途中でやめなくてよかった。

なぜ蓮音は子どもを置き去りにしてしまったのか。
読んでいるうちに、そこに至るまでの気持ちを知りたくなったのです。
というか、知るべきだと。

この物語はあくまでもフィクションですので、
事実は異なるところも多々あると思います。

でも、これとよく似たことが実際に起きた、ということを知ることはできます。

亡くなった子どもたちが何を感じ亡くなっていったのか。
その描写に涙が止まりませんでした。

事件を悪いこととして認識することは誰でもできます。
でも、なぜこんな悲しいことが起きてしまったのかといった背景まで
思いをめぐらせることができる方は多くはないのでは?

私だって、いい人ばかりが出てくる本や、わははと笑える本を読みたいと思う。
でも、それだけでは私の世界は偏ってしまいます。

世の中には様々な人がいる、それこそ自分とは全く考えの違う人もいる、
ということを知ることができる(それも深く!)のが本なのだと思います。
同時に自分がいかに無知であるかということにも気付かされます。

読むのは本当に疲れたけれど、でも最後まで読んで本当に良かった!

今、人知れず悩みを抱えている方は、一人で悩まないでください。
辛いときは、どうせ私のことなんて誰もわかってくれない…
とあきらめてしまいそうになるけれど、
そこであきらめてしまったら、ますます辛くなるだけです。

本当に辛いときは誰かに頼ったっていいと、私は思います。

もうこの先、この本のような悲しい事件が二度と起きませんように。。。

yukikotajima 11:30 am