田園発 港行き自転車
2015年5月27日
先日、富山空港から飛行機に乗った際、
ちょうど窓際の席だったので離陸時に
富山の街並みを眺めてみたんです。
私の住む場所はどのあたりかしら?
と軽い気持ちで窓の外を見てみたら、
キラキラとてもまぶしくて思わず目を細めてしまいました。
キラキラの原因は、太陽を浴びた田んぼです。
水が貼られた田んぼがまるで大きな鏡のようになっていました。
何枚も何枚も並ぶその鏡を見ながら、
自分自身の姿を見てみろと言われている気がしてきて、
この街では嘘はつけないってことなのかもな、
なんてことを思ってしまいました。
そんな気分になった直後、私が手に取った本は、
宮本輝(みやもと・てる)さんの小説
『田園発 港行き自転車(上・下巻)/集英社』
でした。
本を読みながら飛行機の中から見た富山の景色が思い出されて、
ああ、私はなんていタイミングでこの本と出合えたのだろうと嬉しくなりました。
というのも、この本には、富山の美しい景色と、ピュアで正直な心の人たちがたくさん登場するのです。
わかるわ〜と頷ききながら、私のブログを読んでいる方もいらっしゃるのでは?
北日本新聞に連載されていた小説ですので、
連載されたものをお読みになっていた方もいらっしゃると思います。
単行本としては、今年4月に発売されました。
上巻下巻合わせて800ページ近くもある長編です。
富山、京都、東京の3つの都市の家族が交錯し、
つながっていく様が描かれています。
***
簡単に物語をご紹介しましょう。
東京に住む絵本作家の女性の父は、
富山の滑川駅で突然亡くなります。
家族には仕事で九州に行くと言っていたのに。
娘は、その15年後、父の足跡を辿る旅に出ます。
亡くなった父のことを知るのは、
富山をはじめ、東京、京都の三つの都市に住む人たち。
それぞれの物語が紡がれ、
徐々に交わっていくようになります。
様々な偶然が重なって。
彼女の父が家族に嘘をついてまで滑川に行った理由は?
父の秘密とは?
***
800ページもあってかなりの読み応えがありましたが、
読み終えたあとには、なんともすっきりさわやかな感覚が待っていました。
私はこの本を3日かけて読んだのですが、
最後に読み終えたのは、晴れた日の午前中で、
窓からは爽やかな青空が見えて、
思わず窓を開けて鼻から思いっきり空気を吸い込み、
大きく伸びをしながら、今日もいい日だ〜!と声を出してしまいました。
この物語の終盤は、ちょうど今の時期の富山が描かれていて、
まさに今私の近くで起こっている出来事のような気がしてきました。
きっとこの本を読んだあとは、
本に出てきた場所を歩いたり、サイクリングしたり、ドライブしたりしたくなると思います。
私ももちろん、なりました。
それもこの時期に。
小説の舞台を周るのであれば、
是非今すぐこの本を読んでください。
落ち着いたら…ではなく、今ですよ、今!
また、小説としての面白さだけでなく、
はっと気づかされるような言葉や生き方にもたくさん出合えました。
素敵な人もたくさん出てきます。
そんな人たちと出会えた喜びも大きかったです。
本当に読んでよかった。
そういえば、この本を読みながら、
オトナモードの「風になって」の曲が自然と頭に流れてきました。
いつか映像化されることがあれば、
是非この曲を自転車のシーンで流してほしいなあ。
***
ちなみに、この本と合わせて、
新聞連載時の挿絵を集めた挿画集も今人気なんだとか。
富山出身の洋画家、藤森兼明(ふじもりかねあき)さんが描かれたもので、
富山の美しい景色を堪能できるようです。
小説と合わせていかがでしょう?