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なぎさ

2013年11月13日

先日、家の本棚をぼうっと眺めていたところ、
学生時代によく読んだ山本文緒さんの小説が目に飛び込んできたので、
そのまま1冊手に取って読んでみました。

私が読んだのは『みんないってしまう』というタイトルの本です。

読むのは15年ぶりくらいで、残念ながら内容はほとんど覚えていませんでした。

あんなに好きで読んでいたはずなのになあ、と寂しさを味わいつつも、
でも読んでみれば、選ばれた言葉やリズムが心地いい。
そう、しっくりしているのです。

昔は毎日会話をしていた懐かしい友人と久しぶりにお話をしているような感じでした。

ああ、このやりとり、この間合い懐かしい!と何度思ったことか。

また、私が日々思っていることも書かれていました。

“ひとつ失くすと、ひとつ貰える。そうやってまた毎日は回っていく”

この考えをすっかり自分のものにしていたけれど、
実はここで出合った言葉だったのかもな。

何かをなくしても、
「自分の中に新しい何かが入ってくるための隙間ができた」
ということだから、空っぽになることはない!

と不安になったり何かを決断したりする時に思っていたのですが、
この考えとの出合いは、この本だったのね、と気付き、
一人で舞い上がってしまいました。(笑)

1冊読んだら、山本文緒さんの最新作を読んでみたくなり、
調べてみたら、先月新作が出たばかりでした。

10月22日に角川書店から発売された

『なぎさ』

という15年ぶりの長編小説です。

物語は3人の目線で進みます。

一人目は、料理をはじめ家事だけが取り柄の主婦、冬乃(ふゆの)。
30代後半です。

会社員の夫である佐々井と
二人の故郷である長野から久里浜に引っ越し、静かに暮らしています。

二人目が、夫の佐々井の会社の後輩の川崎。
元芸人志望で何をやっても中途半端な20代半ばの男性です。

そして3人目がモリという男性。
海外生活が長く、帰国後、佐々井家に住み着きます。

そんな3人の目線で物語が進んでいきます。

静かな生活を送っていた佐々井家に
元漫画家の冬乃の妹のすみれが転がり込んできます。

そのすみれに誘われ「なぎさカフェ」という名前のカフェを始めることに。

しかし、カフェを始めることをなかなか夫に言えない冬乃。
同じく会社がブラック企業であり大変な状況であることを言えない夫。

夫婦は分かり合えるのか。
ブラック企業に勤める夫や川崎は大丈夫なのか?
妹の本心は?
モリという男はいったい?
そもそもなぜ故郷を離れ久里浜で暮らしているのか?

など読めば読むほど気になることが増えていきます。

いやいや、自分のことでいっぱいいっぱいなのに、
これ以上、他の人の面倒な話なんて聞きたくない!
と思う方もいるかもしれません。

私も本を読みながら、うっ、めんどくさい世界に足を踏み入れてしまったかも…
もっとぱーっと明るい本を選べばよかった、なんて思っていたのですが、
最後まで読んで、この本に出合えて本当によかったと思いました。

苦難が自分に降りかかってきたとき、どうやって乗り越えればいいのか?
きっとひとりひとりその解決法は異なるのだと思います。

これをすれば100%OK!というのがあればいいのですが、
そんなものはありません。

この本の登場人物たちはどのように乗り越えたのか?
そして、いつどんなときに希望を感じたのか?

その答えが知りたければ、本を手に取り、直接希望を感じてみてください。

普段、我慢することにすっかり慣れきってしまった方も、
この本を読んでいる間は、
泣くことを、また自分の本当の感情を、我慢せずに
まっさらな気持ちで本を読んでみて。

読んだ後は、少しだけ世界が変わって見えると思います。

最後にこの本の中の私の好きな文章を。

「自分の意志で決めて動いているようでも、
 ただ大きな流れに人は動かされているだけだ。
 できることはちょっと舵を取るくらいのことだ」

山本文緒さんの作品、やはり私好きだ!

yukikotajima 12:00 pm