朱鳥の陵(あかみどりのみささぎ)
2012年6月27日
「春過ぎて 夏来たるらし 白妙の
衣干したり 天の香具山」
という歌。
百人一首の中でも有名な歌ですので、
ご存知の方も多いかもしれませんね。
この歌を詠んだのは、
日本史上最強の女帝、持統天皇です。
初夏の緑と白い衣が爽やかな歌のように思えますが、
この本を読んだ後は、まるで異なる解釈になってしまうはず。
私は、この歌を目にする度、
きっとこの本のことを思い出します。
今日ご紹介するのは、
『朱鳥の陵(あかみどりのみささぎ)/坂東 眞砂子(集英社)』
という本です。
舞台は、飛鳥時代の奈良。
主人公は、先ほどの歌の中に名前があります。
白妙(しろたえ)という女性。
彼女は、人の夢の意味を解く力を持った夢解売(ゆめときめ)です。
白妙は、時の天皇の伯母が見た夢解きをするため、都に呼ばれます。
伯母が見た夢の意味を探る中で、
見知らぬ少女、讃良(ささら)の心に入りこむようになっていきます。
彼女の目を通して、様々なものを見ていく白妙。
そして、讃良を通して目にした出来事と伯母の見た夢が少しずつつながっていきます。
なんと、その讃良という少女は、最高権力者、持統天皇本人でした。
やがて白妙は、持統天皇の秘密を知ることに…。
持統天皇というと、さきほどの百人一首のイメージが強いかもしれませんが、
少し整理をしておきましょう。
夫は天武天皇、父親は中大兄皇子で有名な天智天皇です。
夫亡き後、実際にまつりごとを行った女帝です。
そんな彼女がいかにして女帝へとのぼりつめたのかが描かれます。
この本は、まるでタイムスリップしたかのようなリアルな質感で、
私自身が白妙になったかのような気分で本を読んでいました。
昔の話でも、まるで今の話のように感じられる作品もあるけれど、
この作品は、昔のまま。
その理由は、その表現にあります。
例えば、
「太上天皇」は「おおきすめらみこと」
「大納言」は「おおいものもうすつかさ」
など。
あえて訓読みにこだわったそうで、
その音の響きがより当時の様子をよりにおわせていました。
えっ!そんなの、難しくて読めない…。
と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、
漢字はそのままですので、難しければ漢字だけを追っていれば読めると思います。
私も最初は、なんだこれ?と思いましたが、
物語の世界に入ってしまった後は、それほど気になりませんでした。
それよりも言葉の響きの美しさが印象的でした。
しかし、その美しい響きとは裏腹に、
どこか不穏な空気が漂います。
先を知りたくないと思いつつ、ページをめくる手を止められませんでした。
ちょうど今は梅雨の季節。
しとしと雨の降る、静かな夜にオススメの1冊です。
私は、本を読んでいる最中、あまりにも集中し過ぎて、
突然なった電話に体全体がビクッと反応。
あんなにドキッとしたのは無いと言うくらいにビックリしました。(笑)
本を読み始めたら、携帯電話の電源はオフにした方がいいかもしれません。
それから、この本を読みながら、気付いたことがひとつ。
人は、自分が正しいと思っていることは、素直に受け入れられるものだけれど、
もしかしたら違うのではないかと思っていることに関しては、
何かと言い訳をつけて、無理やり納得させているものかもしれません。
あなたにもありませんか?
これでよかった、と思いこむ度、
頭の中に言い訳をつけていること。
でも、本当はわかっていませんか?
この判断は、間違っている、と。
なーんてことも感じた1冊でした。
どこかに行きたい〜!
でも、無理—!
など、ちょっと現実逃避を希望気味の方は、
是非、本の世界へトリップしてみてください。
それでは、飛鳥時代へ行ってらっしゃい。