52『オリンピックの身代金』
2009年10月7日
私の大好きな作家さん、奥田英朗(おくだ・ひでお)さんの
第43回 吉川英治文学賞受賞作『オリンピックの身代金』を読みました。
おとといの「キノコレ」で、紀伊國屋書店富山店の朝加さんが、
今年のミステリランキングの候補作として挙げられた本です。
奥田先生自ら「最高傑作」と言いきるほどの大作です。
中身の濃さはもちろん、実際に、ボリュームもありました。
ここまでの超長編は、久しぶりに読みました。
それを考えると、このボリュームで、1,890円は安いかも!
私は、先週から、毎日この作品とともに生活してきました。
ぶあつい本を持ち歩き、ちょっとでも時間があれば読んでいました。
おかげで、2重の生活をしているような気分でした。
普段の生活を送る私と、本の中の世界を生きる私。
だからこそ、読み終えた今は、ちょっと寂しかったりします。
それでは、早速、どのようなお話なのか、ご紹介しましょう。
昭和39年夏。10月に開催されるオリンピックに向けて、
東京は、急ピッチで準備が進められています。
次々に近代的な建物が建ち、日々、街の景色も大きく変わっていく中、
東京で相次いで爆発事件が発生するんですね〜。
警視庁の刑事たちが事件を追うと、ある一人の人物が浮かび上がってきます。
物語は、たくさんの登場人物が次から次へと入れ替わり、
それぞれの視点から見た「事件」が描かれています。
そのため、ひとつの物事を多面的に見ることができます。
犯人=悪い人ではなく、犯人側に対しても情が湧いてきて、
どちらかというと、警察の方が「悪」に思えてきたりして、
なんとも言えない複雑な気持ちで事件を追っている自分がいました。
私は、昭和39年当時はリアルタイムで生きていませんが、
作品からは生々しいほどにリアルな空気感がまざまざと感じられました。
そして、この作品は、エピソードごとに日時が記されているのですが、
奥田さんは実際の天候や史実も調べて、物語に反映したのだそうです。
当時のことを知る人にとっては、
この作品は、フィクションとは言え、リアルな描写に、
もしかしたら、知らないところで、こういうことが起きていたかもしれない、
という錯覚を覚えるかもしれません。
本を開けた瞬間、今の時代には無い「昭和の熱気」が、
もわっと出てくるのがわかるくらいのリアルな空気感でした。
奥田さんの作品は、出てくる人たちが、
「本の中の人」ではなく、
「すぐ隣にいそうな人」が多いのです。
だから、本を読んでいる感覚というよりも、
その世界を体感しているような感覚に近いのです。
今回も、私は、タイムスリップしていました。
あなたも、そんな奥田ワールドを体感してみませんか?
クセになると思いますよ〜。
ちなみに、奥田英朗さんと言えば、
『無理』という最新作が先日出ました。私ももちろん購入。
また読んだら「ゆきれぽ」に感想を載せますね〜。