『ボタニカ』
2022年3月2日
先月、2023年前期の朝ドラが、「日本の植物学の父」と呼ばれた
牧野富太郎をモデルにした物語であることが発表されました。
演じるのは神木隆之介さんで、ドラマのタイトルは「らんまん」に決まったそうです。
また、朝ドラだけでなく小説の主人公にもなっています。
今日ご紹介するのは、牧野富太郎が主人公の『ボタニカ(祥伝社)』です。
直木賞作家の朝井まかてさんの小説で、今年の一月に発売されました。
本の表紙には、蝶ネクタイをつけて朗らかに笑う老人のイラストが描かれ、
帯には、ただひたすら植物を愛し…とか、
莫大な借金、学会との軋轢もなんのその、などと書かれていたので、
お金が無く敵が多い中でも大好きな植物の研究に取り組み続けた
ピュアで穏やかな男性の物語なのね、
とイメージを膨らませページをめくれば、
植物たちに「おまんの名前は?」語りかける少年富太郎が出てきて、
思った通りの美しい物語だわと思って読み進めていきました。
ところが、私の勝手なイメージはすぐに打ち消されました。
植物が大好きなことに違いはないのですが、
植物をはじめ自分の好きなことにしか興味が無いのです。
また、家が裕福なため欲しいものはなんでも買ってもらえるし、
小学校はすでに知ってることばかりでつまらん!
と中退してしまうというわがままっぷりです。
さらに、知らぬ間にというか、ちゃんと話を聞いていなかったせいで
結婚することになってしまうのですが、どこか他人事で、
ある人からは「君は人に対して無神経だ。
身近な人間にも植物と同じように心を向けて、大事にしないと」と叱られるほどです。
結局、結婚したものの家業は妻に任せ(というかおしつけ)、
もっと植物について知りたいと一人東京へ。
なんと学生でも無いのに東京大学理学部植物学教室に出入りを許されることになります。
そして、植物の研究は熱心におこなうのですが、
東京で出逢ったスエという若い女性との間に子どもができ、
一緒に暮らし始めることになります。
さらに本など研究に必要なものを次々に買い、気づけば借金だらけ。
お金がなくなると実家の妻にお金を催促する始末。
自由すぎるー!
富太郎は明るく正直な性格ゆえ第一印象は良いのですが、
植物のことしか考えていないので、敵を作りやすいのです。
間違っていることに対しては、
たとえ立場が上の人だろうが「違う」とはっきり指摘し、
「学会の中に閉じ籠っておらんと、野山を歩けばよいのに」と思います。
「もっと教授を立てろ」とアドバイスされることもあるのですが、
そんなことをしても日本の植物学は進歩しない!と反発します。
その一方で、植物に興味を持つ人なら、
たとえ相手が十二歳であろうと対等に扱っています。
みな、友人、仲間だと。
また、学歴や肩書への興味もまったくありません。
ただただ植物が好きで、いろんなことを知りたいし、
知ったことは世の中に広めたいと思っているだけなのです。
わからないことは本を読んで調べ、
さらに深く知るために植物を観察するということを
何歳になっても続けていきます。
この本には、そんな富太郎の正直な思いが綴られています。
私は正直なことを言えば、最初は、なんなんだこの人は!
ちょっと苦手だ…と思いながら読んでいましたが、
気付いたときには、彼のファンになっていました。
そして、富太郎の作った植物図鑑を見てみたいと思い、
図書館に行って見てきました。
富太郎が自画自賛していたとおり、植物画は素晴らしかったです。
ただ正確というだけでなく、植物への愛を感じました。
色々な人に迷惑をかけながら完成させた図鑑は、とても丁寧に作られていて、
植物に詳しくない私が見ても楽しく読むことができましたし、
この図鑑を目にした人は、富太郎を応援したくなったに違いないと思いました。
それにしても。。。
爽やかなイメージのある朝ドラで、
この自由すぎる富太郎をどのように描くのかしら。
どう描いたとしても、自分の「好き」を貫くさまにきっと勇気づけられる気がします。